家族を喪った哀しみが簡単に癒えるものではないとは思うが、ヒロインは彼ドーソンの痛みに、柔らかさとユーモアで接し、そして、過ごしている時間の楽しさを感じさせる。ナチュラルに笑い、泣く、生身の人間の魅力を発散しつつ、ズカズカと強引には来ない。で
も、誘い上手の誘われ上手。
実に丁度良いポジショニングで彼の心のなかにいつの間にか居て、冷えきっていた彼の人生にもう一度灯火を点けた。外商という職業上モットーとしてきた客の好みに寄添う姿勢が、彼との関係でも発揮された。
でも、彼は自身が事故の生き残りであることが辛く、自分をなかなか許すことができない。自分を責める。強く責めて、暗いところに引き籠っている。
そういう経験をしたらそういう気持ち、私も持つかもと思う。自分だけなぜ助かったんだ、そんな気持ち。自問して、何度も振り返って、脱却出来ない。外からみればそこまで自分のことを追い詰めなくてもと思うか知れないが、きっと、嵌まりこんだら当人はその心境に囚われて、楽しむことなんてできなくなるのだろう。
ヒロインとドーソンのケースは、たまたま異性に対する恋愛が介在したけれど、前を向いて笑顔を取り戻してもらうのは、なにもそんな間柄に限定されないかもしれない。ただ、男女関係の方が、抜け出すのもよりドラマチックだろうと思う。
ヒロインの手を取って飛び出そうとして、いやダメだ、と、自分を押し留めてしまう・・・
愛は、悲しみに閉ざされた彼の氷の扉を溶かした。
生きるということはそういうことなんだと思う。愛の讃歌ともいうべきー
悲しみのために籠っていた彼を好きになってしまったヒロイン、ただ彼の笑顔を求めた。努力と願いが届いて、ホントに良かったね、というお話。
麻生先生の、可憐で気品あるヒロインが、彼の容姿とよく似合う。あと、58頁と、80頁台のキスシーンが両方とも、よく決まっていた。
彼がヒロインの帰り際を追いかけ、待ってくれ、怒ってるだろうと言うところなんかもめちゃくちゃ気に入った。
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