石原美知子との結婚後、太宰治が初めて上梓した単行本『愛と美について』は竹村書房から1939年5月20日に刊行されました。本書から太宰の「中期」が始まります。甲府の新居で書かれた「新樹の言葉」と「愛と美について」、旧稿を書き改めた「秋風記」と「花燭」、そして七里ヶ浜心中事件で命を落とした田部あつみを想起させる未完の「火の鳥」が収録されています。「全部、未発表の作品であるから、読者も、その点は、たのしみにして読めるのではないかと思う。こんな物語を書いて、日常の荒涼を彩色しているのであるが、けれども侘びしさというものは、幸福感の一種なのかも知れない。私は、いまは、そんなに不仕合わせではない。」(著者)。上記竹村書房版を底本に、巻頭に「ミニ解説」(北條一浩)を付けています。2010年の常用漢字改定に照らし合わせた現代仮名遣いへ改めるとともに常用外漢字にはルビを振り読みやすくした縦書版電子書籍です。
目次:
読者に
秋風記
新樹の言葉
花燭
愛と美について
火の鳥
著者・解説者紹介
著者について:
1909年6月、青森県北津軽郡金木村(現五所川原市)生まれ。本名、津島修治。東京帝国大学仏文科中退。1935年「逆行」が第一回芥川賞候補になる。1936年第一創作集『晩年』刊行。以後、「女生徒」「斜陽」「人間失格」等著作多数。1948年6月没。