イギリスには伝統があるクリプトグラフィー。学生時代専攻していたという英国人男性は、世界中の機密情報を英国はいつも握っているという自負を持っていた。ミステリー好きなお国柄もあり英国っぽさを感じる。その上対仏情報戦の要素が乗っかり、それだけでス
トーリーに魅力がある。その謎解きと向き合うだけで、お話ひとつ纏まるような所へ、女性は小難しい話をしないでよろしい、という、男性からの女性に対する蔑視にも似た時代風潮の何となくのわだかまりを、ヒロインが晴らしてくれる。
紙幅さえ許されれば、ヒロインに悪口中傷を言い囃していた「紳士」達の鼻をあかすシーンも欲しかったくらいだ。
ヒロインのことを6年前に傷つけた事実のあと、そんな卿の女性観がちゃんと変わったところ、じっくり見たかった気もする。いつの間にかその辺は、好きになってた、だけで片付けられたようでそこも勿体ない。
ヒロイン弟はかわいい弟で頼りにもなる重要な役目を持つためか見た目も親近感あるが、肝心の卿の顔が時々素敵に見えない。横顔が特に。そこが、見た目に引き摺られる私には厳しかった。まして、前半の描写に、ヒロインの卿のことを避けたい気持ちに同調できる、傷ついた6年前のことがある。
つまり、卿には、彼への悪印象をひっくり返して余りある萌えイベントを繰り出す手札がないと、読み手は、ヒロインが安易に靡いたと見えてしまうのだ。
原ちえこ先生は少女漫画掲載誌時の画風そのままに、随所に懐かしい面影を見出だせる。こうしたヒストリカルに近いものが全盛期だったためか、原先生の作品は違和感が無い。丸みを帯びた線に親近感もある。
妙齢で男性に敬遠された嫁にゆき遅れの娘が、卿との噂で、傷物になったら、しかし、責任をとって結婚までしなくてはならない時代では、と思うが。
それに、美人じゃないとの設定だったのが後半美しくなったとあるが、インパクトあるギャップ描写な訳でもなく、暗号解読スキルとの間で、卿がラブにシフトしていく感じが物足りない。
ストーリーの面白さは二重丸なのに、ラブ面のドラマが視覚的に薄いのが惜しいと思うのだ。
女性に人気ある卿ということだから、納得させて欲しい。
見開きをひとコマで表される頁は、美しかったし、少女漫画のあの頃のようで。
盛り沢山が纏め上げられていて、楽しかった。
「予期せぬ求婚」と、原作者違いのシリーズ物のようだ。
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