他のレビューアーさんのコメントから、このストーリーが、よくあるHQのシーク物でないらしいと知り俄然興味が湧き購入。だが、二人は敵同士の間柄、という、対立の立場の構図の中の愛、シンボリックなバックグラウンドのために設定された色合いのほうが強か
った。
シオニズム運動が登場する砂漠ロマンスは個性的ではあるし、その憎悪レベルも、個々の家同士とか、一族のとか、そんな単位を軽く越えた、民族的スケールの話は、二人の関係が簡単なものでないことを示す点では大きい。そこを乗り越えた愛を描ければ、それだけ別の価値を見いだしがち。異色作的な立ち位置の存在感確保には一定の成功をしている。
でも、ちょっと待て、なのだ。出会いから結末までの筋は、二人の関係の成り立ちと発展の上で、強引さと不自然さに満ちていて、背後に物語が設定している対立云々と一旦切り離した筋立てを見ると、私にはそれはあまり好ましい恋愛スタイルに映らないのだ。これは、ストックホルム症候群といわれるものと一体どこが違うのか、ハッキリとした甘さを湛えなければ、私の疑いは払拭されない。
二人の愛が、モノローグや体の関係描写以外に、ビジュアルに伝わるものがないと、本当にヒロインが彼を好きになった実感を、読み手のこちらが読み進めるコマの中に見つけにくい。どこか信じられないのだ。
「取り違えられた息子」という映画がある。
今も現実に両者が居住する地域がある。
ひとつのシリアスなテーマ設定と性的描写に寄り掛からず、二人の愛の芽生えから高まり、そしてハピエン迄、愛のストーリー面も見せてほしかった。
髪の光沢と、男性の眼が気になって仕方なかったのと、ヒロインの叔母も家庭教師のその後も、置いてけほりが多すぎて、食い散らかし印象が強いのとで、カラッとしない。
砂漠はリアルに砂漠に見えて、砂粒が景色を作り出しているかのような絵に驚く。
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