まんまと騙されてしまうのか、人を疑うということを知らない、愛一筋に進む「無垢」なヒロイン、読んでいるこちらがハラハラする作り。美内すずえ先生の「王女アレキサンドラ」を思い出した。あれは信じるということが悪人を善人化する話、こちらは、愛する心
が男の底にあった情を揺さぶり、腹の中の膿を浄化する話。
兄の働きが要となり、メイン二人の関係を新たなステージへ連れ出す物語の方向チェンジが入る。
JET先生ご担当の兄編があり随分前に読んだが、
本作のお兄様は、JET先生の描いたお兄様にしか見えない。筆を先生が入れられたか?
両先生共描かれる人物は成熟した大人なので、HQ気分充実。ただ、時々ヒロインの顔が荒れた印象。HQは年齢より幼い絵の人物がよく有って、興を削がれ勝ちだが、先生達の絵は大人なので嬉しい。
彼は悩んだ。そこは判る。が、結論出すところは結末に取って置きのシーンになった。失いそうになりながら、失いかけながら、結果は、失わず全て手中。HQは欲張りだから。出来すぎた話には見える。
ヒロインに対してハラハラを盛り上げるだけ盛り上げておいて、ヒロインは後半は反撃の戦闘モード。失望と怒りと悲しみがあったにせよ、前半の子羊キャラはひっくり返る。餌食となるまでは大丈夫かと言うほど無防備でうぶな反応ばかりだったのが、後半は猫が総毛立ってフーフー唸っているかのよう。お怒りごもっともだが、その男性不信人間不信への振り子が左右真反対へ振り切ったも同然なのに、相手をまだ嫌いになれない所を、言葉より絵の説得力で見たかった。
ヒロインに衝撃を与えた日から彼は心乱れる日々。ヒロインは強く出るようになり、彼は自分のやり方に自信が持てなくなった。
彼は思い切りが良すぎて、我が身の清算について少しの躊躇なく一切合財なものだから、却ってそんな潔さが、男らしくて、私がヒロインならもうもう声を上げて泣くところ。騙されたことには悔し涙でも、彼の幕引きは、彼のこだわりへの理解は頭の中にある。彼女には気持ちのいい決着感は抱けない。いい年をした大人の自分が被害者顔だけで済まされない。不実行為への彼の誠実な向き合い方として、無条件全面降伏の如く両手を挙げられたら、彼のところに兎に角走ってみるしかない。そんなとき、そこにいるんだ!?、と、流れ的に共感するものの、ドラマ盛り上げにまで効果的。このシーンは頁数欲しかった。兄器広し!
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