例えば雨が降ったなら
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例えば雨が降ったなら

カサイウカ

初恋をもう一度

ネタバレ
2021年11月4日
このレビューはネタバレを含みます▼ 今まで読んで来たカサイ先生の作品全て、どうしてこんなに心が揺さぶられるのだろう。と、思えてしまうくらい心の内の描写が素晴らしい。
30年も前の初恋は、自分のせいで苦く切ないものにしてしまった久我。好きな男を傷つけ、傷つけてしまった事に自分も傷ついた久我。あの瞬間の充の表情は、絶対忘れる事の出来ない表情だった。あの表情は胸をグサリと刺す。言葉にして表すには難しい。セリフもなく表情だけで表す悲しみが、何とも言えないくらい胸が痛みます。カサイウカ先生の真骨頂とでも言いましょうか。ほんとに切ない。
初恋が忘れられないのは、傷つけたからだけでなく、まだ心にくすぶる想いが残るから…くぅ~。人生どん底の45歳。くたびれたおっさんになっていても、恋はキラキラ輝くんだぁ。くたびれてたっていい。カッコ悪くったっていい。もう一度、初恋を取り戻そうよ。なんて素敵なおじ恋だろ。
久我の前から姿を消した充もまた、忘れる事が出来ずにいながら、違う男に身をまかし…
うぅ…やっぱり充の泣き笑いのような顔がたまらなく切ない。年なんて関係ないよ。ただ愛されたいだけ…屋上で交わす二人の会話が、涙を誘います。もう二度と後悔しないで、手を離さないで欲しい。
そして、交わした約束を守って、必ずこの場所へ帰って来て下さい。
もう、これは『例えば雪が融け合うように』が気になって仕方ないです。彼等の幸せな姿を最後まで見届けたい!

はぁ…年齢層の高い恋ですが、大人の恋にしびれます。ヤクザの丹崎もまた、充に本気で惚れていたのかなと勝手に思って、不器用だなとしみじみ思います。手を引く事が最後の愛情の証しだったのかな…考え過ぎ?

ストリップ劇場が舞台となって、登場する踊り子のお姉さん方もいい人ばかりで、温かい場所です。その居場所に久我の帰りを待ちわびたい。

ちなみに、グッと来たシーンは、煙草の火を移し合う時に近づく顔。わぁぁぁ、素敵。ドキドキします。
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