世界の果てで待っていて
」のレビュー

世界の果てで待っていて

高遠琉加/茶屋町勝呂

色々と衝撃的で物凄いものを読んだ気がする

ネタバレ
2025年7月16日
このレビューはネタバレを含みます▼ 小気味いい文章と所々文学的な表現に珠玉のセンスを感じました。雨音や形容詞(夥しい)の聞き慣れない使い方など沢山ある中で一番を挙げるなら…私はこれ、「首から先が断ち切られた花みたいな、取り繕いようのない沈黙」です。沈黙という音のない状態を表すのに、聴覚じゃなく視覚で訴えるその手法に感嘆しかありません。

二人の深層心理が絡み合うシーンでは、既の所で有耶無耶になった、櫂谷本人にも分からない気持ちの表現方法が逆にリアリティがあったと思います。相手を好ましく思う気持ちはあるのに、それが恋情に似た何かとは確信できない…したくない?複雑な想いが伝わってきて、理性的で理論的な人にありがちな思考回路で櫂谷らしいなと思いました。

対して統一郎みたいな勘の強いタイプは、理論より理屈より今ある事実と感情を元に動いて「結果が全て」と考えるのではないでしょうか。行動・言動の全てにおいて櫂谷と対照的で、それでいて同じ熱を感じる二人の空気感にずっと触れていたいと思いました。

1巻は主に統一郎視点で語られ、2巻は櫂谷視点で語られる割合が多かったです。そういう視点変換も後から考えると伏線のような気がしました。読者はもちろん、櫂谷でさえも知らなかった統一郎の真実、統一郎が見ている、追いかけているものを突き止めようとするならば、それは効果的かつ必要な設定で、先生の手法に衝撃を受けるばかりでした。

一見、1巻と同じようなパターンで事件に関わる展開に軽い気持ちで推理を楽しみながら(本当に…どうしてそんな気楽にいられたのかと後になって思いますが)読んでいて、物語に暗い影を落としながらも過去として動かなかった二年前の事件が、突如として襲いかかってきます。

そもそも「辛い過去」と思っていても、裏とか別の真実があるとか思ってもいなかったところへ青天の霹靂的に降って湧いた、重要で重大な事実…その衝撃は凄まじく、櫂谷同様に底知れぬ闇に飲み込まれたような気がしました。

その辺の真実を突き止めようと、櫂谷が鴉や統一郎と距離を詰める時の心情や表情の揺れ・軋みなんかの表現が独創的で斬新でした。先生独自の文章と世界観が確立されているのを感じましたし、凄く好みでした。

2巻のラストは、物語の核心に近づいた一番いい所で続く…パターンなので、何かしら叫んだのは私だけではないはずです。完結してから読みたい人は注意が必要です。
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