妊娠したら死にたくなった~産褥期精神病~ 合本版
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妊娠したら死にたくなった~産褥期精神病~ 合本版

橘ちなつ

生霊の恨みへの医療の限界

ネタバレ
2025年9月2日
このレビューはネタバレを含みます▼ 主人公の千夏は、学生時代から漫画家で成功を収め、愛情豊かな家族に育てられ、暖かい友人にも恵まれていたと思います。
唯一の挫折は、仕事への責任が重くなった事による、ストレスから通院する事で使用した薬が、妊娠した時に弊害が出るものだった。
普通は、精神医療関係者との交際や結婚は、禁忌事項として取り扱われていて、患者側の本心が周囲にバレた場合は、不倫関係並みのバッシングに遭うのが現状です。
なので聡明な患者は時に、自分の基本的人権を守る為に残酷に振る舞います。
しかし千夏の場合は、漫画家としてのキャリアがあったので、そのタブーを突破しました。
薬剤師とベテラン漫画家の組み合わせなら、誰も文句は言えません。
それに、本当は千夏のような繊細な人にこそ、知識のある関係者が寄り添ってくれる方が望ましいはずなんです。
あと、妊娠に影響を及ぼさない薬の開発をしない、精神医学界の怠慢は、断罪に価します。
薬の副作用への強い恐れも千夏には負担でした。
妊娠による、まるで怪奇現象のような症状を、精神論で語る医師の姿は愚かでした。
まあ、霊感商法の餌食になるよりは、マシかも知れませんが、読んでいると確かに、生霊の恨みってあるんだなぁと思います。
勿論、千夏は何も悪い事はしていません。しかし、千夏の恵まれた境遇への嫉妬、妬み、嫉み。
加えて千夏の心の純粋さと、悪意との戦い方を知らない無防備さにつけ込む、医療スタッフ達。
閉鎖病棟という、閉ざされた空間の中で、人はここまでも残酷になれるのかと、呆れて物も言えません。
本人すら、どうして良いか分からないし、医学は人命優先なので、医学的措置として仕方がない側面はありますが、せめて言葉だけでも「こんな目に遭わせてごめんなさい」とか、「悲しみを鎮めて下さい」とか、「千夏さんの幸せを認めてあげて下さい」とか「千夏さんへの意地悪は辞めて下さい」とか「浮かばれぬ思いの身代わりに、私達医療スタッフを呪って下さい」と言った、巫女のような気持ちを持つべきです。患者を虐めてナンボとか、月給泥棒にも程がある。
令和は、精神医療に瞑想を取り入れる事が、普通になっています。
心を整える。更に踏み込んで、霊的な発想も必要です。
それは、可笑しな宗教に嵌れという事ではなく、否定の言葉を慎み、患者の為に祈り、不思議な体験を与えて下さる、患者への感謝の心が大切だと思います。
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