サマー・ボーイ・ブルー
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サマー・ボーイ・ブルー

遠野みやこ

リアルな痛みを描いた作品

ネタバレ
2025年10月16日
このレビューはネタバレを含みます▼ 喫茶店で働く少年・ミチルは、中学生のときの初恋の相手・潤と再会する。二人はかつて結ばれかけたものの、触れ合うところを潤の母親に見とがめられて以来、疎遠になっていた。昔と変わらぬ態度で接してくる潤だが、ミチルは過去を引きずり、一歩踏み出すことに臆病になってしまう……。という話。

近年、BL作品ではメインのカップルを描くだけでなく、彼ら以外のクィアを登場させるなどして、マイノリティと社会との関係を解像度高く描くものが増えているなと感じています。『サマー・ボーイ・ブルー』も、その系譜に位置する作品として受け止めました。
本作では、若者たちを取り巻く大人の描き方がとくに印象的でした。潤の母親は、息子の性的指向を知った混乱から、ミチルの母に残酷な言葉を浴びせたうえ、現在においても潤のすべてを受け入れられてはいない人物です。他の大人たちも、できすぎた善人ではなく、子供との距離にとまどうこともある未熟なひとりの人間として描かれています。そのあたりのリアルさはやるせない気持ちにもなりますが、自分たちの人生を生き始める潤とミチルの姿がひときわ胸を打ちます。
ところどころユーモラスでかわいらしい場面もあり、爽やかな気分で読み終えることのできる素敵な作品でした。結ばれたあとのふたりがもっと見たい、という気分になるので、シーモア版の特典は嬉しかったです。
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