ドラマチックにオルガン弾きが時代に巻き込まれ、社会の争い事に取り込まれ、内戦に演奏生活から切り離され、父からも引き離され、そして、武器を持たされた。いずれも当人の意思など何処にもなく。
戦時下の男女が束の間の出会いと忘れられない記憶。
私は音楽物の漫画は特に好きだが、それに加えて、ハーレクインで実力を認識させられている大御所さちみ先生作品。HQ系統のあの基本一冊完結スタイル、という短編にも拘らず、殆どの作品で中身のあるストーリーと胸を締め付けるような感動を、呼び起こせる先生。しかも、本作はシリアスだが、作品によっては笑いまで取りに行ける、守備範囲の限界知らずの実力者。さちみ先生の、こちらもHQと同趣向(宙出版)作品とあって、しかも、販売期間終了間近と知って、早く読んでおきたい、と焦っていた。
レビューでハピエンを確認していたので、そのことも私の背中を押した。
戦争が絡んでいる話は普通は人の死と無縁ではない。事実だけで沢山と思っていて、フィクションに迄余り人の死に立ち会いたくはない。リアルな世界では、恋人同士は、戦いが済んだからといって、はいハピエン、などまず安易に望めないだろう。儚い束の間の恋に終わったとしても、多くのケース、残されて女は彼との短すぎる二人の日々と、その時に通わせた心を大切に胸に住まわせて生きていくのだろう。戦争物に涙のない話など初めから無理と判ってる。
ともあれ、ここは、このジャンルの基本設計で、ハードな現実で終わらせない。そこはハピエン大好き人間の私の好みに沿った筋立てだった。
大切な時間は何年も通りすぎてしまったけれど、でも、まだこの先はある。
そういう時の彼って、格好いいんだよなー、と話の締めに来る満足度ももう一度アップ。
ただ、養護院と戦地との異常な近さが気にはなる。
ストーリーは大変清らかで、争い事が引き起こしていること、引き裂くものなどを描写する。
制作意図はクッキリだが、戦闘と音楽、孤児ヒロインの境遇、という三者の組み合わせでドラマにするとこうなる、という難しさも少々感じた。
幼馴染みポジションの彼がとんでもなくヤな奴という訳ではなくて、それでいてこの結末とは、良かった。これで1人も報われなかったらそれはそれで微妙だったから。
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