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この書物はふつう「科学論」とか「科学哲学」とよばれる問題領域を対象としたものである。しかし従来その方面で試みられてきた書物とは少々ちがった仕方で作られた。
というのは、まず科学者が原稿を書き、次にそれを種にして哲学者が論する、という形をとったことである。その際、科学者たちは、それぞれの専門領域で現に自分がぶつかっている問題、あるいは自分の研究にとって基礎的な意味をもつと考えられる問題を提出する。ただし同じ専門家を相手にしてでなく、知的一般人に向けた論述としてである。この側の執筆者は、前原、林、柳瀬、西島、小田、川喜田、印東の諸氏である。これら科学者たちの専攻分野は目次によっても明らかであろう。他方、大出、沢田、大森、山本は、それぞれの原稿を分担し、そこから哲学的な問題点を自分なりにとりだして意見を述べた。「自分なりに」というのは、この四人はたがいに哲学上の傾向を異にしているが、その議論をどんな手法で、どんな方向に進めようと、各人の自由にしたのである。ここで問題をもう一度もとの科学者に戻してまとめをつけることも考えられるが、この書物ではその作業を読者にまかせることとしている。
こうした成り立ちのものであるから、本書は、科学哲学における諸問題を全般的にとりあつかうことも、科学の諸分野をひろくおおうことも、はじめからめざしていない。むしろ、個別的で具体的な問題点を科学と哲学との両面から同時に考えてみようというのが眼目なのである。しかし哲学的な意味をもった基本的問題は、あらゆる科学分野にわたって、そして一つの分野の内部においても、なお数多く見出されるであろう。
目次
まえがき
はじめに
Ⅰ 数学における確実性……沢田允茂
1 数学の確実性……前原昭二
2 統計学における問題点……林 知己夫
3 数学化について……大出 晃
4 科学方法論としての統計学……大出 晃
Ⅱ 物理学における認識
5 観測の理論……柳瀬睦男
6 素粒子論における基本的概念……西島和彦
7 宇宙論……小田 稔
8 知覚風景と科学的世界像……大森荘蔵
9 様相概念の存在化……沢田允茂
10 観測と身体……山本 信
Ⅲ 生命と意識
11 「生命体」の問題……川喜田愛郎
12 心理学におけるモデル構成の論理……印東太郎
13 生命と意識……大森荘蔵
14 生物についての科学と常識……山本 信
15 心のモデルと存在……山本 信
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