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これ(本書)は、昨年(1958年)四月から、ことし(1959年)の四月まで一年間、『エコノミスト』に連載した私の話をまとめたものである。それは、私が経済学というものをならいはじめてから今日まで五十年の思い出を、同じ学問をおよそ二十五年やっている鈴木鴻一郎。大島清・武田隆夫の三教授の質問に応じて語った、この学とこの学界についての漫談である。はじめは二ご一回、ほんのちょっびりと思っていたのであるが、いつの間にか長い物語となった。メモも何ももたないままでのおしゃべりで、筋が通らなかったり、いい足らなかったりであり、また余計な口もきいている。それよりも何よりも、多くの友人・先輩を何かとあげっらって、ずいぶん礼を失している。謹んで罪を待つばかりである。
思いがけなくも『思い出の記』ができあがって、私は晩年のよろこびにたえない。この本がもしさらに何人かの読者をもつならば、私のよろこびはなお一層大きくなるであろう。(「はしがき」より) 本書はその上巻(第一章から第六章までを納める)。
目次
はしがき
第一章 わたくしの学生時代
どうして経済学を志したか(一)/当時の東大/田尻稲次郎/山崎党次郎/歴史なき歴史学派/新渡戸稲造/ヴェンチヒ/社会主義と学生/矢作農攻学/松崎財政学/官学と私学/学界の中心・一橋/津村の『国民経済学原論』/つまらなかった四年間
第二章 社会政策学派の盛衰
社会政策学会の由来 労働問題の桑田熊蔵 社会政策の福田 社会政策学会の事業/全盛時代/経済学の独立と新入登場/米国留学/役人を辞めた/東大に帰る/(以下略)
第三章 経済学部と経済学の独立
森戸辰男君/上方成美君/舞出長五郎君/糸井靖之君/矢内原忠雄君/一国を興す人/ 河合栄治郎君/本位田祥男君/後年の学内対立/櫛田民蔵君/権田保之助君/『資本論』の出版合戦/森戸・櫛田の論争/森戸事件/マルクス主義に入門/迷える羊、ドイツヘ渡る
第四章 ヨーロッッパ留学
インフレ下の留学生/ハイデルベルク/不安定なドイツの政情/『金融資本論』を読む/意外だった英国の社会主義/パリの生活/大震災で急ぎ帰国/大文庫続々と輸入/留学は有益か
第五章 マルクス主義の開花期
激動の十五年間/東大経済学部の新風/日本におけるレーデラー/研究室の復興/財政学の講義公/マルクス主義開花期に咲いた大輪三つ/大原グループ/『社会思想』同人/ 『マルクス主義』一派/(以下略)
第六章 ファシズムに抗して
三・一五事件/ファシズムの台頭/三・一五と京大/京大事件への抗議/東大転落の実証/『資本論』禁書となる/ぼくの演習/封建論争/教授グループ事件/一斉検挙/狂った時代/獄中の読書/(以下略)