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開国,明治維新にあたり,いち早く文明開化の思想的啓蒙にのり出した福沢諭吉の発言は,しかし時代を鋭敏に反映して必ずしも一貫しない.その著作を逐一検討しながら明治期日本の性格を解明する。
福沢諭吉の著作は、政治論・外交論・教育論・社会論・経済論・婦人論と多方面の領域にわたっている。しかし本書では、もっぱら政治論を中心にとらえたので、経済論・婦人論に言及することは少なかった。
私が主題を限定したのは、次のような理由からである。福沢の思想の本領は、官に均衡すべき民の力の伸張を主張し、人民の自主自立と国家の対外独立の貴重さを説いたことにあった。この論点は、プルジョア自由主義思想の最良な部分を代表したものということができるが、こうした思想は、福沢以後に継承発展せしめられて国民の共有財産となることが少なかった。これはなぜか。私はこの問題を、究極において明らかにしたかった。
これを世界史的な帝国主義段階前夜における東アジア情勢、日本の国内情勢から説明することができることは、もとよりである。しかし福沢の思想の内面から追求するとどうなるのか、彼の思想を継承発展させることを困難にする要素が、彼の思想そのものの内部に備わっていたのではないか、これが私の問題意識であった。この課題にせまるうえで、本書は、福沢の思想的営為と、彼がその思想を公にすることをとおしてかかわった政治との関連を軸に、主要著作の一つ一つを検討するという方法をとった。
(「あとがき」より)
目次
I 考察の視点
Ⅱ 幕臣としての進退
1 藩・幕府との関係
2 征長建白書の提出
3 読書渡世の一小民
Ⅲ『学問のすゝめ』と『文明論之概略』
1 一身独立して一国独立す
2 学者の職分と人民の職分
3 西洋の文明と日本の文明
Ⅳ 国会論から士族論ヘ
1 国会尚早論への批判
2 明六社解散の提案
3 士族の役割の評価
Ⅴ 国権のための官民調和
1 『通俗国権論』の外戦論
2 内安外競の提唱
Ⅵ 政府への接近と朝鮮強硬論
1 明治一四年の政変
2 東洋政略論と帝室論
3 甲申事変への関与
Ⅶ 初期議会と日清戦争
1 国会開設への提言
2 官民調和論の破綻
3 文明の義戦
Ⅷ 評価の問題点
福沢諭吉年譜
あとがき