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この本は、一九六九年に東大医学部保健学科で行なわれた総合講義を上台として作られた。暑い時期に二日にわたって開かれた講義は、学生諸君だけでなく、大学院学生、教官をも含めて狭い教室は満員という状況で進められた。それは人類生態学という新しい学問領域に対して、保健学科の仲間が並々ならぬ関心を持ち、それを育てあげようとしてくれていることの具体的なあらわれのように思えた。
人類生態学者であると自らを規定するのには、あまりにも未熟な段階にあることを承知の上で、学部外の先生方にも応援をお願いし、その御助力によって、何とか人類生態学のアウトラインを引いてみたいというのが、この企画のときのいつわりのない気持であった。もとより人類生態学それ自体の内容が今回の諸テーマによってすべてカバーされているとはいえない。その意味でこの本は私たちの勉強の一つのステップであり、この本を読んで下さる方々からの御批判。御助言によってさらにもっと多くの階段を上っていかなければならない。
人類生態学に関する関心が、徐々に拡がっていることを肌に感ずることが多くなった。わが国で数少ない「人類生態学教室」で勉強する者として、いろいろな意味で荷が重いことを痛感することもまた多い。(「はしがき」より)
目次
はしがき
I 人類生態学序論……勝沼 晴雄
ヒューマン・エコロジー/人類生態学理解のために/人類生態学と健康養護/人類生態学からみた生活・経済の位置づけ/総括
Ⅱ 文化的環境と人間……泉 靖一
文化の概念/文化の内容=要素/人類の進化と文化の形成
Ⅲ ヒトの生態と進化……渡辺 仁
はじめに/人類の分類的な位置/進化のステージ/ ヒトの進化/アウストラロピテクス/ピテカントロープス/ネアンデルタール人/ホモ・サピエンス/まとめ
Ⅳ 適応の弾力性……鈴木継美
生息の場所とサプシステンス・エコノミー/生物的適応と文化的適応/栄養所要量ということ/人間・裸の動物/将来にわたっての適応能の問題
Ⅴ 人類の疾病・死亡と環境――死亡の季節変動形態を中心として――……籾山 政子
人類の疾病・死亡と環境/人類の疾病・死亡の季節変動形態
Ⅵ 人口密度の社会的・生物的影響……竹本泰一郎
はじめに/集団密度が高い状態での影響/孤立状態での影響/まとめ
Ⅶ バイオメーターとしての血色素濃度……松本信雄
はじめに/血色素研究のあゆみ/変動の諸相について/人間と環境との交渉/生活諸要因との関連
Ⅷ 人類生態学・解題……鈴木 継美
人類生態学に向けての学問の流れ/個体・集団・生物群集/群れの側からみるか場の側からみるか/環境というもの/おわりに