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この本において、私は、政治的論理についての権威者たちの結論を繰り返したり、論駁したりするつもりはない。これらの思想家たちに多くのものを負っていることは認めるが、私としては、多年にわたる読書・考察・観察・経験といったものを通して、政治権力の性質について私自身で見出してきたものをあえて提示したい。
私の目的は、社会統制の過程において、政治権力がいかなる役割を演ずるかを提示することにある。その際、一定の統治形式や統治態様を批判し、あるいは擁護しようと試みる人びとの場合に通例見うけられるよりは、できるなら、より多くのリアリズムをもってするつもりである。本書で検討されるのは、次のような諸点である。すなわち、権力が登場してくる状況。競い合う数々の忠誠。権力の裏面および権威の表としてのクレデンダとミランダとアジェンダ。生き残っていく権力保持者のテクニック。権力行使の対象となる人びとの自己防衛のやり方。権力の窮乏。権威の拡散・没落・倒壊。現代における権力に見られる諸傾向。これらが本書の検討の内容となるであろう。(「序章 問題の所在」より)
本書はCharles E. Merriam, Political Power : Its Composition and Incidence, New York : Whittlesey House, McGraw-Hill, 1934の全訳である。原書は、その後ラスウェルやT ,V・スミスの著作と共に、A Story of Power として、フリー・プレス社から一九五〇年に刊行され、さらにラスウェルの序文をつけてコリア・プックス(ベイパー・パック版)の一つとして一九六四年に再刊されているが、いずれも内容は初版のものと変りはない。
本書の魅力の一つは、一方でのナチス突撃隊の威声をきくような熱っぼい臨場感と、他方でのおよそ時代と場所とを超越した醒めた分析との組合せであろう。
本書は、やはり今日においても、政治とは何かを身近かなものとして、ときに生々しく理解させてくれる。読者は、本書を通じて、読者をとりまく今日の政治状況について、さりげない、しかし思わず息をのむような洞察にみちた警句を見出すことであろう。約四十年前の本書が、依然今日においても生きている所以である。(「訳者あとがき」より) 本書はその下巻。
目次
第六章 権力の窮乏
第七章 権力の技術
第八章 自己放棄による権力
第九章 権力の病と死
第十章 現代権力の諸問題
社会行動と社会過程とに影響する基底的諸要因
権力の社会的構成
基底的な共通問題
権威主義にかかわるイデオロギィ的諸傾向
権力過程の新しい道具
訳者あとがき