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統計や統計的手法が広く各分野で用いられている以上、その意味について正確な理解を得ることは、きわめて大切なことであろうと思う。それにもかかわらず、そのような点についての整理は、十分にはなされていないといわねばならない。「統計学とは何か、何であるべきか」という問いに対する一つの答は、戦争直後に「推計学」という形で与えられた。それは「推測と計画の科学」であるというものであり、確率論にもとづく小標本理論、ランダム・サンプリングによる標本抽出、統計的実験計画法が「単に記述のみをこととする旧い統計学」に対して、近代的な科学的方法として主張されたのである。「推計学」の考え方に対しては、批判もあり、論争も行なわれたが、しかし、その後は統計学の基本的規定にかかわる問題は、しだいに論ぜられなくなり、むしろ、その技術的な面だけがとり上げられるようになっている。
このような状況は望ましくないといわねばならない。この本は、このような現状を打破して、再びより活発な討論がまき起ることを希望しつつ、統計学はいかにあるべきかの問題をめぐって、五人の統計学者が、五回にわたって行なった討論の記録をまとめたものである。
われわれ五人は、いずれも推計学あるいはそれに近い方法に理解と興味を持ち、同時にその科学的・社会的意義についても、それぞれ方向は異なっても、深い関心を持つものである。一方、年齢からいえば、五人はとくに「推計学」との関わりにおいて、それぞれ異なる世代に属している。また専門の研究分野においても、また理論的立場においても、必らずしも一致するものではないが、それだけに問題をいろいろな観点から論じ、理解を深めることが可能となったのではないかと思う。
この本が統計学を学ぼうとする学生のみならず、統計や統計データに日頃接し、あるいは統計学に関心を寄せる一般の人々にとって、統計学についての理解を少しでも深める手がかりとなることを希望したい。(「はしがき」より)
目次
はしがき
問題提起として……竹内 啓
討論■問題提起をめぐって
第1章 日本における推計学の発展とその問題点――戦時中から戦後の十年間――……坂元平八
討論■日本の統計学、戦前・戦後
第2章 推計学批判と社会統計学……広田 純
討論■推計学批判の問題点
第3章 「推計学」以後の数理統計学……竹内 啓
討論■数理統計学と現代社会
第4章 統計学と社会のからみあい――公害問題をめぐって――……吉村 功
討論■公害問題をめぐって
第5章 計量経済学の現代的意義……佐和隆光
討論■計量経済学をめぐって
むすびに代えて
本書に出てくる主な統計学者
執筆者紹介