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前著『医師と患者』という本を出してから十数年が過ぎた。あの本は、予想外の好反響?があったようで、いろいろな知人から書評や感想等をもらい、次の機会には、『医師と患者」という題をまともにとりあげたような内容のものをもう一度書いてみたいと思うような気持になった。永い間臨床教室に在籍していたのだから、医師と患者との関係についてはもちろん考えていなかったとはいえないが、実のところ、医師の座に厳然と坐って、患者さんやその周辺を見おろしていたのかもしれないと、おそまきながら反省させられているのである。
医師の立場としては、患者の初診から、その病気の動きや治療の効果等を絶えず注意深く観察し、その間、医師の考え方に一時的な迷いや誤りがあっても、患者の監視を絶えず続けている過程では、その少しの誤りを是正しながら、大局的に正しい方向に患者を導いていくことができる。このように患者をもっていくのには、患者と医師の間の密接な関係がどうしても必要である。この密接な人間関係というパイプを通じ、医学が患者を誤りなくコントロールしていけることになる。この人間片関係をつないでいく要素は、患者側からすれば、医師を信頼することであり、医師側としては、一つには医学の知識、経験、設備をもつことであり、―つには、医師が人間として良心的な気持をもっていることが必要であろう。
本書は、その後、虎の門病院に移ってから折にふれて書いたものを収録した。また、新しく当面した問題についても、私なりに感じたことを、ありのままに記してみた。(「序」より)
目次
序
Ⅰ 医師の心、患者さんの心
医師の心、息者さんの心/ 医師と裁判官/ 安楽死について/ 尊厳死の権利/ 植物人間/ 内科医師としての臨終の考え方/ 医学の進歩と医の倫理/ ヒポクラテスと医の倫理――日本の科学、医学におけるヒポクラテス――/ ヒポクラテスの誓
Ⅱ 健康に生きるために
成人病の予防と対策/ レッグ・パンピング
Ⅲ 患者さんから学ぶ――医学教育と医学研究――
患者さんから学ぶ――自治医科大学の卒業を前にする学生に対する講話――/ 僻地医療と自治医科大学/ 臨床と病理/ 臨床と剖検/ 医学教育と解剖/ 病気の治療/ 内科専門医制度について/ 成人病研究所/ いわゆる難病の診断基準と問題点
Ⅳ 随想・追想
或る病理学者の死/ 南原繁先生の追憶/ 良い師/ 私が神経学の道に入った契機/ 終戦(敗戦)の頃の思い出/ 運命論者/ 生命飢餓感と読書飢餓感/ 月旅行とガンの治療/