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これは心理学の初学者向けの概論書ではない。また専門書としても標準的なものではない。そのような目的で誤って本書を購入されることのないように、まず右のことを記しておく。私は本書で、「生得」という心理学術語の用語法の基準を設定してみた。そしてその設定により、人間のいくつかの心理機能が「生得のもの」として理解されるという帰結を導いた。とりわけ、私は、そうした心理機能の例として、知覚と論理を採り挙げ、その生得性を論じた。知覚にア・プリオリな構造が認められるというのは、既にゲシタルト学派の主張したところである。したがって、私の論議は、知覚に関する限り、グシタルト学説の反復にすぎない。しかし、論理機能を生得と見倣すのは多くの心理学者にとって目新しいことかもしれない、と思う。
もとより私は、数多くの批判のあることを覚悟している。しかし、私の立場をマクドゥガルの本能説の復活になぞらえ、そのことだけで非難するのは早計だとだけは言っておきたい。何故なら、社会関係という衣裳の多様な変転を超えて、千古不易の人間性が存在することが否定できないとすれば、そのことを理解するためには単なる「経験説」ではこと足りないことが明らかだからである。しかも、この「千古不易の人間性」という仮定は、あくまで仮定にすぎないのだが、人間にとっては抜き難い仮定なのである。(「はしがき」より)
目次
はしがき
第一章 生得ということ
一 観察上の基準
二 推論上の基準
三 斉一性および独立性の基準
四 年代領域の原理
五 還元不可能性の基準と層位の原理
第二章 知覚
一 射影変換
二 因果性の知覚
三 知覚の多義性
四 実在の二つの層
五 知覚学習
第三章 論理
一 二律背反
二 公理系の不完全性
三 二分法
第四章 動機ということ
一 心理学における「動機」
二 「動機」の用語法
第五章 生得的動機ということ――競争の場合
一 通時的比較
二 通文化的比較
第六章 動機としての知覚と論理
一 比喩
二 比喩の源泉としての知覚と論理
第七章 学歴競争に寄せるあとがき
注
引用文献