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人間にかかわる諸科学のそれぞれの領域において(中略)取り上げられる問題は常に関連する他領域の問題と容易には分離しえない。時には同じ問題を異なった方法によって研究しようとすることによって領域区分が辛うじて成立するという事態も稀ではない。人類生態学もまた、人間にかかわる科学の一つである。とすると、この錯綜しもつれ合っている人間諸科学のそれぞれのなわばりの中に割って入って、その独自性を主張するためには、際立って強力な個性が必要なはずである。そのような個性がはたして人類生態学に存在しうるのだろうか。
人類生態学の研究領域は個体・個体群での水準に主力が置かれるべきで、必要な場合にそれが生態系生態学、生物群集の生態学と連携するということになる。生物群集、生態系の研究として人間が扱われる場合、当然のことであるが、人間は研究対象の一部分である。もちろん、人間を含んだ研究なしには、この両領域の研究は今後意味を持ちえない。そして人類生態学の中からこの分野に進出する研究者が育つことは大いに望ましいことである。しかし、そうなるためには、個体・個体群水準での人類生態学が今後それなりの充実を遂げることが先決であろう。
まず地域を設定し、それから人間を眺めるという物の見方と、そうではなく、まず人間をとらえ、次にその環境へと視点を移して行くこととは、一見大差がないようでありながら、具体的には大きな違いを作る。人類生態学者の物を眺める向きは、地理学者のそれとは逆になっている。その点では、人類生態学は生物学、人類学と共通した問題のとらえ方をするといえるだろう。(「第1章 人類生態学とはいかなる科学か イ 研究の領域と方法」より)
目次
まえがき
第一章 人類生態学とはいかなる科学か
イ 研究の領域と方法
ロ 実験科学か野外科学か
ハ 人類生態学の扱う「問題」
第二章 人間とその環境
イ 情報としての環境
ロ 生態学的複合
ハ 各種のアプローチ
第三章 手作りのセンサス
第四章 センサスから人口動態ヘ
第五章 人口の長期変動
第六章 人口調節のメカニズム
イ 人口の再生産
ロ 人口の移動
第七章 生業の構造
イ 生業を把握するために
ロ 生業活動の記録
ハ 分業と協業
ニ 投入される活動と産出されるもの
第八章 消費の諸側面
イ 生産から消費ヘ
ロ 分配の機構
ハ 入手可能性と受容
ニ 消費と支出
第九章 環境の評価
イ 生息の場所
ロ 環境の個別性
ハ 順応・同化・文化変容
ニ 適応の破綻
文献と参考書