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本書は、「誰のために書いたのか」と問われたならば、誠に申しにくいのだが、「実は、自分のために書いた」といわぎるを得ないのだ。わたし自身が、「保育研究がおもしろくなるために」書いたのである。
本書は、「保育研究」を教育学研究としてのスジをつける、という私自身の「研究者としての」目的にしたがって書かれたものであるから、研究者向けの本とされるかもしれない。しかし、わたしは実践と研究をはっきり分けて考える立場はとらない。本書で提起した図式にしたがっていえば、(YOU的関係をもつ)実践者と「横並び」で(しかし、わたし自身ははどこまでも「研究者」として)、「保育」という現実にせまろうとしたものである。すぐれた研究は、同時にすぐれて実践的であるはずだと確信しているので、本書が実践者にとって「役に立たない」、「研究者が研究者向けにしゃべってるだけ」という評価を受けたならば、それは、わたしとしては、本書の出版が完全なる失敗であるばかりでなく、わたし自身が保育の専門家としては完全なる失格者であるとの宣告を受けたものとして受け止めるつもりである。
本書には、三本の柱がある。第一は、「文化的実践への参加」という柱である。第二は、「ドーナッツ論」であり、第二は「子どもらしさ」である。三本の柱は、わたしとしてはここ十数年間、教育研究のスジとしてずっと考えつづけてきたことである。
カバーの絵と各章の扉の挿し絵は(中略)、伊藤さんの紹介で、日本画家の小倉玲子さんにお願いした。(「あとがき」より)
目次(詳細目次略)
第1章 子どもを見るということ
1 子どもを具体的に見る
2 「けんちゃんの絵日記」からの脱皮
3 「子どもを見る」という行為
4 「子どもに寄り添う」ということ
5 子どもを「集団の一員」として見る
第2章 子どもが「発達する」ということ
1 保育における発達観の変化
2 ピアジェはどう乗り越えられたか
3 子どもは他者の「心」がわかるか 「心の理論」研究
4 「子どもの発達を見る」ということ
5 関係論的発達論
第3章 保育思想の源流をさぐる
1 幼児教育のはじまり
2 倉橋惣二の幼児教育思想
3 現代の幼稚園教育要領に見る倉橋思想
4 もう一つの保育思想 「社会主義」保育の流れ
第4章 「ともに生きる」保育
1 佐伯の「ドーナッツ論」
2 文化的実践を、文化的実践で、文化的実践へ
3 保育における「援助」とはなにか
4 「ともに生きる」保育 円熟した保育者になるために
注
あとがき