祖国を離れて、闘った女。
栄光を得て、全てを喪った女。
ディートリッヒ、リーフェンシュタール、原節子、ヘップバーン。
才能と運命に翻弄された女たちの物語――。
ともにベルリン芸能界で活躍、1930年代にスターダムへと駆け上がった二人の女優、マルレーネ・ディートリッヒとレニ・リーフェンシュタール。
1933年、ハリウッドで成功したディートリッヒは、ドイツへ向かう船上でヒトラーの演説を聞き、違和感をおぼえ帰国をとりやめる。やがて第二次世界大戦が勃発すると、米国籍を持つ連合国兵士として従軍。戦後、ドイツ保守層からは「裏切り者」扱いされ、二度とドイツで暮らすことはないまま、国際的名声を得た。
一方、リーフェンシュタールはナチス政権下で女優から監督に転身。ナチス美学を体現するプロパガンダ映画を撮り、世界中から批判を受けたが、その美的センスは後世の映画作家たちに多大な影響を与える。戦後はすべての名誉を奪われたまま、それでもドイツで暮らし続けた。
二人と親子ほど歳の離れたオードリー・ヘップバーンは1959年、ダブリンで20年ぶりに父親と再会する。彼女の両親はかつて英国のファシズム運動に参加し、ナチスシンパとしてヒトラーと面会も果たしていた。両親の過去に秘密を持つ彼女もまた、ナチスによって人生を変えられた一人だった。
そして、戦後民主主義の象徴ともいえる女優・原節子は、42歳の若さで映画界を去り、公式の場からも姿を消す。17歳の彼女がヒトラー政権下のドイツに渡ったのが1937年。初の日独合作映画『新しき土』のキャンペーンのためだった。この映画の監督アルノルト・ファンクこそが、リーフェンシュタールの監督の才を見抜き、彼女をナチス美学のスターへと仕立て上げた張本人だった。
国家とは何か。祖国とは何か。
芸術家や文化人は、国家権力とどのようにつきあうべきなのか。
いまや私たちにとっても切実なテーマを、4人の女性の歩みとともに描き出す。
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