静かな中に先生の感性の、余人に代えがたい表現方法の凄みが潜んでいる。
そこに浸りたい人はこの作品集で。
わたしは3冊分共バラで読んだが、いずれも5星を付けている。
「二人で見る夢」ーモノローグの似合う絵柄に、都会ではない別荘地の雰囲気
が乗ってきて、そっと生きたい彼の心をヒロインの存在が揺るがす。ジワリ築き上がる人間関係。くぼた先生の描く絵に出てる空気感が絶妙に、二人の間柄に意味付けをする。彼にとってヒロインはいつの間にか意識から消せない存在に。私を愛して、と彼の愛情をねだらないヒロイン。愛の言葉を欲しがるHQは多いから、そっと手を取る姿が却って二人の形として存在感を放つ。
「あの夜をさがして」ーもっとHQコミック全般を過小評価していた頃、この作品を知って見直した。それまでは、読むにたえない絵力の弱さやストーリーの薄さ、短いのに高めの価格と、このジャンルは一時間足らずの娯楽としては物足りないのが多いことから、2、30冊ザッと読んだらいいか、位に考えていた。しかし、この作品は何もかも深かった。シンプルな表現に豊かな余地があり、余韻に囚われた。重層的で、巧みに心を動かされた。HQコミックの中では名作のひとつと私は考えている。あっさりとしたラインなのに、ポニーではない競争馬というものが描けていることもすばらしかった。
「幸せの青い蝶/氷の令嬢」ーお得な二作品が綴じられた一冊だった。蝶ーの方、技量の高さゆえ、コマの隙間にも物語が語られる。短編なのに人物各人各様が抱いているものがよく、伝わる。すまない、といった彼の後ろ姿も、絵が語っているものは私の胸を刺しこんだ。子どもは子どもで生きていることもたっぷり示して、よくこの頁数で、と思った。氷ーの方、HQ的な形式であり、そこに、ヒロインの矜持が許さないとする作り。唯一、ヒロインのこだわりの氷解描写はもっと欲しかった。良家の子女の中にはビジネスからは遠ざけられることあると思うから、彼女の設定の方には私は違和感はなかった。漫画化する以上は、ストーリーだけで云々はおかしい。キャラの性格云々を只非難する読み手は、元の原作者への不満なのだよね?、とよく思う。しかし、膨大な頁数の原作を薄いコミックにまとめあげるセンスはストーリーの捌きかたの巧拙が決定的に左右する。
しかも、視覚化する表現手段である以上は提示方法が超重要。先生は独自の世界に連れていってくれる。
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