実は三部作中最も期待していなかった。便宜結婚の体を取るストーリーと解説にあったから、HQはこればっかりだから、他の二作品より陳腐なものと、決めてかかっていた。二人は利得への思惑を絡ませて結婚話を軽妙に、用心しながらも甘いキスを挟みながら関係
を進めていく。二人のキスシーンは醒めた二人の口調よりも甘く、愛を自覚する前から情熱を帯びる。キスの巧いセクシーなプレイボーイ、陥落してなるものかとのヒロインの抵抗も楽しい。
その過程で外堀から気持ちがどんどん注がれ、笑いを入れながら二人の間は警戒モードから一気に青信号へと。
「侯爵の逃げ出した花嫁」「公爵に捧げた無垢な恋」(読む順番は侯爵、本作、公爵が良かったとは思う。私は二番目と三番目を逆に読んでしまったが)との共通のシーン多く、三作の共通シーンを新鮮に味わえる工夫はもっと必要と思う。
居合わせた空間的なポジションの相違から来る視点の相違をハッキリ見せる構図だとか、個々のエピソードについて三人三様の捉え方のくっきり対比的な心の風景模様描写とか、そんなところに面白さをもっと見たかった。そうでないと、コスパ的に残念だし、三巻連続して読む場合、飽きも来る。既に十分工夫されていて、流石橋本先生なのだけど。それほどにその3対3は相互に近い関係過ぎて、物語進行の個性を妨げる危険に晒されているのだ。読み手が同じ事象を新鮮に思わなければこればっかり、となってしまう。全てに美しい教会のステンドグラスがあしらわれた表紙カラー頁、見事に3通り。その繊細な仕事と、美しい配色などに目を奪われる。こんなにいい仕事している表紙は滅多にお目にかかれない。
三作ともイージーな成り行きで結末に向かうため、波乱好きには拍子抜けする可能性はある。
しかし、三部作にありがちな、内一作は全く毛色が違うというような構成としないで、むしろ統一的に三作とも気持ちよく前向きで明るくて、自立心のあるヒロインが登場。そしてちょっとだけ展開部にヒロインの胸の痛みを共感させ、深刻にせず遺恨を残さない決着にしてあることで、気軽に読める仕上がりなのが逆に安心。各メインの登場人物による三組が友人同士なので、小さな波乱くらいが座りがいい、という読後の彼らのその後のリアリティーのために良かった。
もっとみる▼