先日のレーベルクーポン一覧で目に留まった作品です。フォローさんもレビューされていて、読むのが楽しみでした。期待を裏切らない、好みど真ん中の作品でした。
背景画が特に美しくて、木々がしっとりと雨に濡れた後に、淡く発光するような静かな生命力を
感じます。絵だけでなく、個人的に、選ばれた単語と文節と文脈の繋がりが胸に残る美しさで、とても読み心地がよかったです。
目には捉えきれないほど壮大な菌床が足元に広がっているのかと思うとロマンを感じるし、菌床をレースに例えるところはとてもロマンチックです。蔓延る恋心と消したい恋心を菌床で表現するなんて…ため息。
描き下ろし番外編の、先輩が目撃してしまった指から唇への流れ。目には見えないはずの身の内まで垣間見えて、ちりちりと残ってしまった痛みを「残灯」としたのが、また素晴らしくて。いちいち言葉萌えしてしまいます。
他、短編が2話入っていて、それぞれに書下ろしの番外編があります。男子高校生のお話、「さかなの体温」もとても好きでした。この不思議で美しい世界に入り込み、できることなら、私もその魚を見て触れてみたいという欲が出てきます。
続く「八月、夏の底」は、ほんのりとした切なさと、やわらかい温もりを感じられて、心地よかったです。泥だらけのこうを優しく撫でる春彦の手がおじいちゃんの手になるところで、ちょっと胸が詰まります。宝物をあげたいくらいうれしかった優しい手。まさしく「手当て」だったんだなぁ。はぁ、こうがほんと可愛い。
ジャンルとしては物足りなく感じている方もいらっしゃるようなので、好みは分かれるのだと思いますが、私的には大満足でした。しばらく、浸っていたい世界です。
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