鎖に繋がれたマッチ売りの少年みたいな仄暗い表紙に躊躇いましたが、読み返す度に作品世界に引き込まれ、じわじわと心に沁み入る秀作でした
噛み合わない2人の心模様、心地好くないはない浮遊感、独特なエロチックさを絡ませて『分かりずらさ』で魅せる中
々他にない感性をお持ちの作家さんだと思います。凄く好き。大学生の飛田と真澄の交わらないS(N)とMの境界線のお話。行間を読ませて目で語る、飛田と言う掴み所が無くて得体の知れない宇宙人。P.45の抱き締められた際に見せた 温もりを拒絶する様な醒めた目、触られてスイッチが入る目の対比が何ともジワる。淡々と、どこか空虚で乾いた関係も『プレイ』としてそれなりに愉しんで消化出来ていたのに、お互いの心が近くなる程に溝が出来て『違い』を感じてしまう。温度の違い、距離感の違い、感覚の違い、『普通』の違い、性癖の違い。交わらない、交われないものは存在する。苛立って八つ当たりしているのでさえも飛田にはご褒美で、そんなの飛田には関係なくて置いてけぼりで、淋しくて怖くて、真澄の心は擦り減るばかり。慣れないよ、人を傷付ける事なんか。したくないよ、もう『プレイ』じゃないから… あぁ 飛田と言う真っ暗な宇宙に飲み込まれてしまいそうになる。何か吸引力でもあるのかな?沢山の『佐久間さん』を飲み込んではダメにして来たんじゃないのかな?でも 今迄の飛田ならば「終わりにする?」なんて聞かないで切っていたかも知れない。興奮のないSEXならシなかったかも知れない。あのまま明け方に黙って部屋を出て行ったも知れない。真澄を夢に見て反応する身体で心のスパークルに気が付いた?凄く難解な言い回しの「金星みたいだ」と言った瞬間に 飛田の惑星の軌道は変わったんだと思う。かなり分かりにくいけれど、確実に。一貫して無口で無表情で低体温生物だったのは、ラスト7Pを描く為のプロローグだったのでは?と思える程に、殻を破って想いをぶつける飛田に心を揺さぶられました。あんなに「ぎゅっ」にグッとくるなんて。あんなに堪らなくさせる涙があるなんて。…可愛いよ、飛田。違う惑星の住人だけど『好き』と言う共通思念を核にして、きっと2人なりの宇宙を創っていけると私は信じたい。最後に 表紙と裏表紙の2人を向かい合わせにして見ると、あの手が何を求めていたのか、この出逢いがどんなに尊いものか分かった気がします。あぁ 暖かく眩しい 明けの明星よ
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