女流作家が主人公の甘く切ない不倫物語。これだけ言うとありふれたテーマとなってしまうが、全編をある種の退廃的な気怠さが覆っており、その中で主人公は夫以外の男との短く儚い時を持つ(余談になるが、その意味では文庫より単行本の装幀の方が作品の雰囲気
をよく表している)。
本作の特徴は、とにかく主人公の仕事や恋愛に対する気持ちの移ろいが丁寧に描写されている点である。長い雌伏の後でやっと自己表現ができる作品を書けるようになり、仕事が上向いてきた自分と対照的に、先細っていく画業に悩む相手。初めて男女関係を持った直後をピークに徐々に感情の冷めを覚えて仕事との葛藤に直面する主人公。中年男の投稿者は主人公の心理の細やかな推移描写になるほどと思わされると同時に、相手の男の苦悩もひしひしと感じ取り、そうだよな、と共感を覚え、著者の筆力を見せつけられた感がある。
ともあれ、本作は日本人が好む「滅びの美学」に通じる耽美な一編。但し性描写は他の作品と比べ幾分抑えられているため、刺激的な官能表現を求める向きには少々物足りなさを覚えるかも。
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