キスの続編です。前作を読んだ方はこちらのラブキスまでがセット必読だと思います。
今回の冒頭の文章、前作を読んだ方で胸がギュゥゥゥッとならない方はいないのでは?
本作では苑が自分と向き合い成長します。その上で明渡と新しくスタートを切るので
、前作で消化不良が残った方は尚更、ラブまで読んでみて下さいね。
いつも主体的ではなく受け身の苑ですが、過去の自分を彷彿とさせる少年・実留との出会いで否応なしに自分の深層心理と向き合うことになります。普段、苑が自己防衛のために心の中に張っている予防線や盾が、実留との出会いをきっかけにバラバラと崩れていきますが、明渡の寄り添い方がとても良かった。明渡は最初から、いつでも、苑に対してニュートラルというか、ナチュラルですよね。
前作で明渡〜!そりゃないって!と思った方も、明渡を見直すのではないでしょうか。
創作物ならば完璧で揺るぎない相思相愛が理想ですし、何回読んでも前作の大どんでん返しは胸が痛みます。
だけど、最初から最後まで1ミリもカタチの変わらない『好き』って現実の世界に存在するか考えたら、答えはノー。結局、何がきっかけでどう好きだったかなんて些細なこと。今お互いを想う気持ちがあるのならそれがすべてなのかなと。
苑が自分で一歩を踏み出す姿に感無量。幸せになって!
どの作品も一穂先生は丁寧な心理描写が読み応えありですが、ラブキスはとりわけ苑の心の中が手に取って分かるほど、緻密に、繊細に描写されています。小説で読むからこそ感じる温度があり、物語の世界に引き込まれます。
毎回レビューで書くのですが、一穂先生の小説は濡れ場がとても官能的。文字ゆえになのか、静かなのに湿度が少し上がるような描写で毎回うっとりしてしまいます。
イエスノーに比べると大衆向けではなく、ハッピー全開な話でもないですが、だからこそ心の機微やうつろいを感じられる素晴らしい作品です。個人的に何度も読み返してしまう一冊。
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