会社員の阿川類は引越しを終えたある晩、風呂場の鏡に映る見知らぬ男の姿に仰天した。豪奢な軍服姿で凛々しく美しい顔立ちをした男が、類に向かって己の苦悩を打ち明けてくる。つい声をかけてしまった類に、男は悠朱国の皇帝、志儀と名乗り、どうか悪縁を断ち切る力を授けて欲しいと言う。どうやら鏡を通して異世界に繋がってしまったらしく、類は『鏡の尊』と呼ばれるはめに。特別な力などあるはずもない類だったが、志儀のつらそうな瞳が頭から離れず、風呂場で顔を合わせるたび彼の相談に乗ってやることにした。やがて次第にわかってきた志儀の悩み――それは、二度の結婚の失敗と信頼していた人物の裏切り。志儀の心情に共感を覚え、思わず「あなたの力になりたい」と言った瞬間、類の身体は鏡に中に吸い込まれ志儀のもとへと飛んでいた。突然現れた『鏡の尊』に驚きながらも、皇帝・志儀は類を新しい小姓としてそばに置いてくれることになったのだが…。