レビューを相当数読んでから試し読みをし本編にのぞむ、という経過を大体たどる私、今回本作が和澄先生の遺作であるとわかっていても、レビューを自分が書くときは、客観的に評価するつもりでした。
その姿勢を貫いて、本作は五つ星(以上)にふさわしいと
思います。本当に病の床でもペンを握ったのだな、と、そんなことをあとがきに特別に説明されていて知って、驚くばかりです。あとがきがなければわからないことでした。制作に精魂傾けていたのでしょう。
ストーリー展開は自然で、絵には手抜き感ありません。
二人の感情推移も違和感なく、ヒロインの頑張りも好感しかありません。
彼の方は、長年環境に恵まれずに正規の学校教育を得られなかった子ども時代を送りました。反発とプライドと。ひねくれるしかなかった部分と、ただ純粋にヒロインや屋敷の辺りの子どもや、ヒロインの母の手料理の温もりを知った短い期間の柔らかい思い出。成功してひとかどとなった彼は、ひとときを過ごした屋敷を巡り、これ迄突っぱねてそこから離れていた自分が、再生に関わっていく羽目になったことから変わります。
背中を向けていたヒロインのことも、たくましいヒロインの、積極的というより強引で、やれることはなんでもやってみる行動力により、彼の目の前の景色の変化と共に、意識も変わっていきます。
一歩踏み間違えば屋敷と田園の考えの異なるヒロインは、彼からしたら厄介な存在でしかないのですが、ヒロインは工事関係者や農地関係者等の懐に巧みに入って、見事に再生に貢献を果たします。嫌みなく綺麗な手際を描写しています。
ただ、宿の手配を巡る行き違いと、その明くる朝に不動産とその管理にまつわる急転直下と二人の急進、短い時間帯の変化が、補助的何かが欲しかった気はします。
ただそれでも、ヒロインなりの行動に彼を動かす力があるシーンは説得力があり、二人が愛を伝え合う場面に雪崩うっていくのは、ドラマチックに感じました。
そして、なにより、昔から好きだった人と、という私の、大好きパターンが見事な結実を見せてくれました。
和澄先生の絵、というところでは既読のHQコミックス中、最もクセを感じなくて、優しい感じがしました。
邦題イマイチ。
原作を原則読んでない人間ですが、原作も骨太なヒューマンドラマが描かれていたのではと思えます。よくある、エッチばかりのHQ原作、というのではなく。
もっとみる▼