作品毎に能装束のカラー頁があると良かったように思った。掲載誌が「あやかし」関連とのことで、夢幻能配分強い。現世に想いを残す「霊」が主要キャラであるから仕方ない。その為華やかさよりも、うら寂しい雰囲気。能ならではの無駄の削ぎ落としに通ずるか知
れないが、漫画としてバックが無さすぎてもの足りなかった。舞台空間では有効な間が、漫画内では必ずしも余白の語りとなってはいないように感じた。翁、神、修羅物、女物、狂女物、鬼という型の演目構成の順というのがあることを踏まえると、順番ルールに沿い解説書的にやろうとした制作意図も、あれもこれも型を網羅的に紹介しようとした意気込みも、それら全てを、漫画として面白いかどうか、という視点優先で検討して伝統に則った採り上げを断念したのは、多分大正解だった。
「葵上」「定家」「小鍛冶」「羽衣」「清経」「通小町」「紅葉狩」「猩々」「隅田川」「道成寺」「海人」
2014〜2021年発表作品。各作品に山内麻衣子氏の解説が付く。これがすごくいい。同氏は金沢能楽美術館学芸員。巻末の、令和3年8月波津先生とのオンライン対談などは、漫画作りの裏話も触れていて興味深い。
企画として先駆的(2014年発表「小鍛冶」の漫画化は刀剣乱舞以前に持ち上がったもの)で、中身は真面目。地味すぎるくらいで、個々のストーリー紹介が強く、ビジュアルの仕掛けが控え目な為、解説を読まなかったらその記号化されたお約束が汲み取れない。コマ脇や作者の書き込みで消化されなかったものか。そのせいか、資料を読んでいるみたいな格好に。
でも、仏教思想に於ける牛車の意味だとか後から判って良かったことも沢山。
20代後半の約3年、お謡やお仕舞を学び能(観世)の部活動に加わってほんのちょっと齧った人間としては、もっともっと早くに出会いたかった書である。
(シーモア島でご紹介いただいて知った。)
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