同棲中の自由人な小説家に振り回され疲れた男が、別れを告げて家を出たが、切っても切れない関係に悩み苦しむお話。
物語の最初から二人が別れているという珍しい設定です。だけど、お話の展開にリアリティがありすぎて、涙が止まらなかったです。
4年
付き合ってお互いになぁなぁになってしまう感覚も分かるし、だからこそ「無理、別れる」と思ったきっかけがささいなことだったのも痛いほど分かります。甘え上手な桐生にも、世話を焼いてしまう自分にも尽はうんざりし、流されまいと思ってもままならない。どこに行っても何をしていても思い出が溢れてきて、別れたんだと自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、ドツボにはまってしまう。それら全てが切なくて、痛いほど共感出来ました。
別れたと言ってもお互いにキレイに気持ちが線引できるはずもなく、未練を引きずりまくるのもリアルです。相手の好きだったところに嫌気を感じてしまい戻ってもまた同じことを繰り返すと思う尽の気持ちも分かるし、言葉で伝えることが苦手だからと避けてきて相手の気持がさっぱり分からなくなって戸惑う桐生の不器用さも良く分かります。お互いがお互いに甘えた結果、自分の気持ちも見失ってしまうというのは、一番近くにいる存在だからこその難しさを感じました。
こういうお話の展開だと、ともすれば最終的に別れを選ぶ可能性は十分にあったし、この経験を糧に前に進む二人という未来像もあったかなと思います。だけど、読んでいると、とにかく二人の好きが痛いほど伝わってきたので、ハピエンで良かったなと思いました。別れを考えることは労力を使いますが、尽と桐生には自分の気持ちを見つめ直し、二人の関係を再構築する良いきっかけだったのだと、最後は大きな愛情を感じました。
簡単に割り切れない人の気持ちの移ろいや悩み苦しみが、細部まで丁寧に描かれた素晴らしい作品だと思います。
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