物語は、ヒーローマーチとヒロインジョアンナの出自や生活環境の差に 悩み、苦しみ、そして乗り越えて結ばれる話なのだけれど、その熟考具合と視点の欠落の残念さが、スルっと読んでしまう理由と思う。ジョアンナは大会社の令嬢で、金銭目当ての有象無象に辟
易してきた経験が有り、マーチは、爵位も持ちながらも金銭的な窮状を理由に 絆を築く女性と出会えない事に気落ちしていた。お互い好意的な出会いをしても、経験から 身上を隠す という保身が誤解を招くが、どちらもお互いの立場に視点を置いていない。読み手は第三者であるが、物語の中では主人公に感情移入して読み進めるのがセオリーなので、この話の場合、ジョアンナの視点が重要となる。ルーファスの事故の事はもちろんだが、何よりもジョアンナは、マーチの立場から自分はどうなのかが書かれなかければならないと思う。だから、男爵の妻には身分違い というのは悩みとして当然だが、彼女の実家の資金力が彼のプライドを傷つけはしないか という部分にも触れておくべきと考えるのだ。そういう部分に読者は感情移入して 物語を味わうのだから。また、マーチの行動も いちいち感情だけで行動しているように見えて残念な男性に仕上がってしまっている。出自は自分の意志で決められない事を 彼自身が発言しているのに 彼女の事は棚上げ。もちろん謝罪は有るが、とっさの行動というのは その人の本心が出てしまうものだから狭量に見える。おまけによりを戻すのは、お金目当てに見える。こういう苦悩や思考を割愛すると、物語には味わいが欠けてしまう。また、「スピード違反は嫌よ」と言いながら、2度目のお食事は自宅で手料理を振舞うのは ”スピード違反” ではないのか?ルーファスの事故を暗示させる言葉なのかと思ったが、関連付ける印象は無かった。全体的に可愛らしく平らな印象だった。
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