死んでもいい。この一瞬、この快楽があるのなら。八百屋お七、大奥大年寄絵島、伊勢の遊女…江戸の世の色事を通じて、人間の奥底に巣食う欲望に迫る官能小説集。2014年に逝去した著者の遺作。●収録作【火の華お七】ああ、突っこんで……江戸市中を焼き尽くす大火事のなか、燃えさかる愛欲の炎がお七を取り囲んでいく。【伊勢音頭恋逆刃】憧れの歌舞伎役者に酷似した客。遊女との激しい交わりを屏風越しに見る女は、己の着物の裾に手を入れる。【絵島彼岸】この手を取らねば一生男と交わることもなく終わる。大奥大年寄、絵島は、芝居茶屋の座敷でその男に身を委ねる。【朱い千石船】ひたすら突き進んでくる若い牡の肉体。連日、もみくちゃにされ、幸せに喘ぎ、四十路の私は若返っていく。【本寿院の恋】乳首を含んで舌で転がしておくれ……湯殿に呼んだ若い男を前に、躯の奥から、熱くたらたらした水が溢れ出す。【真昼の心中】風采の上がらない醜い夫を嫌い、手代と密通を続ける女。この世で結ばれないなら、あの世で結ばれるしかない。【黒い夜明け】命じられたら、どんなことであろうが従うしかない。寝間に呼ばれた女の秘所は、将軍の指で弄ばれる。