これ程までに人のひどい仕打ちを受けることを見せつけられると、読者として非力を感じるなか、誰か救ってやれないなものなのだろうかとの思いが募る。
ロックスターとして世界的に活躍した有名人が狭い村に現れた。
既に冒頭、思わせ振りな出会いはある
ものの、そこからはまだ、ヒロインの苦しい境遇は続く。幸せを求めて結婚を信じた人との愛はむなしく消えた。
ヒロイン家庭のような弱者はこれ程までに振り回されるだけなのだろうかというストーリーのなかで、彼女をそんな境遇から脱出させる期待を読み手に抱かせて彼はちらちら登場。ガッツリこれ見よがしではない、要所要所の本当に助かるサポート。
藤田先生の絵の柔らかく品のある線が、ロックシンガーの彼を清潔感香る分別のある男性としている。彼を退廃や堕落のアイコンとしてなど一切出さず(正確には過去は過去のものとしての振り返りは少しはある。今はない、ということ)、自分の魅力で彼女を何とかしようという魂胆さえむき出しになっている場面なく、淡々と手を差し伸べる味方という存在。ひたすら温かさを醸し出し、ヒロインに降りかかっているひどい仕打ちを、優しく振り払い、害を打ち払い傷をそっと癒す存在。
とても、ヒロインへの愛情無くてはここまでは、と思うのに、物語進行中に情熱的になるというシーンは登場しない。
なのに、いえ、だからこそ、そういう形で築かれる関係が、確かなものなのだろうと、納得させられるように描かれる。
悪役が一人ではないし、結構憎らしいことをしてくれるので、ヒロインを見いだした彼は、ただ、世界に名を知られるようになった業界人な訳じゃない、大勢の人間を、そしていろいろな広い世界とを、見てきて、その上で、彼女を見いだしたのだ、という感じ。
狭い村、善人とはいえない人間たちと、無責任な噂を立てるその他大勢と、これからも、そこで暮らしていくのは、お金問題解決しても、やっぱり大変なんじゃないんですか、と、読者の心配は続く。
でも、彼は、弱い立場の彼女を守る力がある。彼サイドのパワーは、悪人をそこまで悪人ではなかったとまで薄める威力もある。
お幸せに、と心から祝福の、そして祈願も込めての柔らかい幸せ到来。
二人の穏やかな田舎暮らしが想像でき雰囲気がある。(その村に、暮らし続ける前提なので、そこ大事。)
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