今から20年以上前。
私が新婚の頃夏に主人と群馬の温泉に行った時のことです。


山あいの温泉で、昼間散歩するには最適な山林地でしたが、夜は静まりかえって不気味な感じさえするひなびたところでした。
私は夜は出歩きたくなかったのですが、主人がどうしても散歩したいと言うので仕方なく付き合いました。
人影もなく虫の声が響いていて早く帰りたくてしかたなかったことを覚えています。
ふと気配を感じて見ると、一本のくぬぎの木の近くに男の人が立っていることに気づきました。
『地元の人かしら。何してるのか知らないけど1人で怖くないのかな』

訝しく思いながらそっと近づいていきました。
次の瞬間、私は弾かれたように反対側に駆け出していました。
木の側に立っていたとばかり思っていたその人は、木から首を吊ってぶら下がっていたのです。


私が急に駆け出したので主人も驚き、どうしたんだと叫びながら追いかけてきましたがら私はあまりの恐怖に旅館に着くまで口がらきけませんでした。
部屋で少し落ち着いて、主人に事情を説明しましたが、主人は何も見ていませんでした。
宿の人に聞いてみたところ、まさにその木で首吊りをした男性がいたそうですが、去年のこととの説明でした。


私が見たのはその人の霊だったのかと毎年夏が来るたびに思い出す出来事です。