八年ほど前の話です。
当時わたしは実家から遠く離れた沖縄のゲストハウスで暮らしていたのですが、事情により、そこで出会った友人とふたりで別のゲストハウスに移ることになったのです。
一軒家をゲストハウスに改造したそこは、わたしたちの他に宿泊客はおらず、立地もとても良かったので、のんびり過ごせるだろうと選んだのですが……
その数日後のことでした。
とても暑い夜だったので、少しでも涼しい気分になれば、と。
携帯で、映画「着信アリ」で話題になった「死の着メロ」をリピート設定で流し続け、それをBGMに雑談をしていたのです。
そんな時急に、何の前触れもなく、音が止んだのです。リピート設定にしていたはずなのに、なぜか解除されていました。こんな携帯の不具合は初めてでした。
選曲も相まって恐怖を感じたわたしたちは、ベランダで煙草を吸ってから寝ることにしたのです。
しかしベランダから真正面に見える真っ暗な林は、恐怖を増幅させました。
林の中からがさがさと音が聞こえ、誰かにじっと見られているような、妙な気配を感じたからです。
自然と会話が止まり、ふたりで林を見つめていると、どさ、っと。背後で何かが落ちる音がしたので、驚いて振り向きました。
まるで、少し重量のある柔らかいものが、畳の上に落ちたような。例えるなら、腕が一本畳の上に落ちたような。そんな音でした。
不思議に思って探してみましたが、そんな物はどこにもありません。
それもそのはず。数日前にこのゲストハウスにやって来てから、わたしたちはまだ荷解きをしていなかったのですから。
わたしたちはすっかり怖くなって、各自二段ベッドの上の段に飛び乗り、電気を付けたまま寝ることにしました。
なかなか寝付けず、三十分ほど経った頃、わたしは急に金縛りに襲われました。
身体が動かず、声も出ず、呼吸も上手くできない。今までも何度か金縛りの経験はありましたが、こんなに苦しいのは初めてのことでした。
その苦しさに耐え、耐え、ぱっと目を開くと、そこには不思議な光景が広がっていました。
もやがかかっているような薄い色の視界。その視界に映るのは、平和な寝息を立てる友人と、四肢をだらんと投げ出してぴくりとも動かない自分の姿でした。
自分の姿を見下ろしたのも、初めてのことでした。
そのまましばらく呆然と自分を見下ろしていると、ふっと金縛りが解け、身体に力が戻ったので、慌てて飛び起きました。視界のもやは、すっかり晴れていました。
その後すぐ、わたしたちは別のゲストハウスを探し、そこを出ました。
あの夜の出来事はゲストハウスのせいではないと考えたりもしましたが、移った先で恐ろしい体験は一切ありませんでした。
そしてあれだけ立地が良かったそのゲストハウスは、数年ともたずに閉鎖してしまったようです。
あの夜立て続けに起こった恐ろしい出来事、そして自分を見下ろした光景は、八年経った今でも脳裏に焼き付いています。