私が数年前に経験したことです。
その頃私は姉と二人で部屋を使っていたのですが、その日はたまたま姉が旅行に出掛けていて、一人で夜を過ごすことになりました。
滅多にできない夜更かしに、ここぞとばかり漫画や本を読んでいたところ、ふと窓の外から音が聞こえてきたんです。
キュッキュッ、キュッキュッ。と。
時計を見るともう真夜中を回って一時近くになっていました。
最初はうるさいな、くらいにしか思いませんでしたが、いつまで経ってもその音は止まず、だんだんこれはなんの音だろうと気になり始めました。
ゴムが擦れるようでいてもっと規則的な音。スーパーなどで小さい子供がよく履いている音の鳴る靴のものだと気づくのに、そう時間はかかりませんでした。
けれど、近所に小さい子供はいません。居たとしても、こんな真夜中に親が一人で歩かせるわけもない。
背筋がぞわぞわして、とても漫画を読む気分ではなくなってしまいました。
そこで寝ておくべきだったと今では思います。でもその時私は、音の正体を確かめようとしたのです。
きっとどこかから遊びに来た子供が、たまたま目を覚まして夜遊びをしているか、さもなくば別の音だろうと。そして安心したかったのです。
一思いにカーテンを開け、窓の外を覗きました。
そこには何もいませんでした。ただひたすらに暗い道があるばかりでした。
それなのに、音は鳴っているんです。
しかもその靴音は、遠ざかってはまた戻ってくるのです。何度も、何度も、何度も。私の部屋の前を往復するかのように。キュッキュッ、キュッキュッと。
その事実に気づいた瞬間、反射的に窓を閉めていました。
布団に潜り込んで耳を塞ぎ、気を失うようにして眠りました。もう頭が真っ白になって、怖いと感じる暇さえありませんでした。
あれから、その靴音を聞いたことはありません。でも街中で子供が履いている音の鳴る靴を見ると、未だにあの夜のことを思い出します。
その音のする方を見たとき、何もいなかったらどうしようと思いながら。