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現代社会における都市と国家と家(家族)について、その機能と形態、それぞれのあるべき姿、そして三者がこれまでどのように関わり合ってきたか、将来はどうかという相関性の問題が、ここ十年以上も私の心を提えて離さない。このうち歴史学の分野では、とくに都市と家についての研究が、今日なおかなり立ち遅れているように思う。
国家が上を媒介とした人間集団の基本的な枠組であり、また家が血と性によって結び合わされた人間集団の最小単位であるのに対し、都市とはいったい何であろうか。社会の都市化と都市の巨大化が、わが国のみならず世界のいたるところで進行しつつある今日、都市の現代的意味と都市文明の行きつく先に思いをいたすことは、およそ人間科学に携わる者にとって、最小限の義務であるといわねばならない。
わが国は都市の技術をヨーロッパ、ついでアメリカから学んだが、現実に形づくられた都市のたたずまい、建築物の形態とその配置の仕方、そして都市居住民の意識は、欧米諸国のばあいと大きくへだたっている。その背後にあるのは、自然的諸条件と歴史的伝統に培われた生き方の違い、つまりは文化の相違であろう。西欧都市文明の源流に立ち返りつつ、彼我における都市と市民意識を、折にふれて対比的に考え、都市とは何か、明日の都市文明のあり方はどうかを探ろうとしたのが、本書のIをなしている。
ⅡとⅢは、Iとつかず離れずの関係にあり、文化のみごとな結晶体としての都市を産み出したヨーロッパの風土、その心とかたちを、フランス史の旅を通し、また中世への随想を通して明らかにしようとしたものである。いずれも既発表のものであり、このほど一書としてまとめるに当り、多かれ少なかれ手を入れさせていただいた。(「あとがき」より)
目次
現代都市の条件 都市研究のための覚書/ 西欧都市文明の源流から 市民像の形成をめざして/ 都市の空間学/ 公共性の観念/ 都市の美学/ 新東京論/ 都市の論理と農村の論理 羽仁五郎著『都市の論理」を読んで
Ⅱ 旅
パリ歴史散歩 重なり合う三つの顔/ フランス史の旅/ 森に生きた人たち/ メリュジーヌの秘密/ エクス・アン・プロヴアンスの春/ 水の文化/ 時間人/ 死を想う時代/ 裏通りの哀歓/ 冬のパリ/ 魅惑のボルドー酒/ ジャンヌ・ダルクの故郷/ 地方に生きる国
Ⅲ 時
ヨーロッパ紀元千年の舞台装置 夜明けの前と不安と期待/ 「パリ燃ゆ」とその周辺 大仏次郎の史伝/ 日本人の時間意識/ 廃刀令百年/ 随想/ 手術と生薬/ 愛の版画集/ 日本人は黄色いか/ 狩猟と牧畜――捕鯨禁上の思想
あとがき