2025年、大阪・関西万博。未来の技術が輝きを放つこの場所で、ひときわ異彩を放ち、最大の注目を集める一体の彫刻があります。二千年の時を超え、イタリア・ナポリからやってきた「ファルネーゼのアトラス像」。なぜ、この古代の巨人は、これほどまでに私たちの心を捉えて離さないのでしょうか。本書は、この一体の彫刻が背負った、あまりにも豊かで、あまりにもドラマチックな物語を解き明かす、決定版ガイドブックです。
■一体の彫刻に、人類の知の歴史が刻まれている
この像は、単なる美しい美術品ではありません。それは、神話、芸術、科学、そして歴史という、人類の知の営みが奇跡的に交差した、類い稀な存在です。本書では、天を支える罰を受けたティタン神「アトラス」の壮大な神話の物語から、苦悩を美へと昇華させたヘレニズム芸術の肉体表現の秘密、さらには、その肩に担う「現存最古の天球儀」に秘められた古代宇宙の謎まで、最新の研究成果を基に、多角的に、そして深く掘り下げていきます。
■その顔は、二千年前に作られたものではなかった。
本書は、この像の華やかな側面だけを語るものではありません。ローマ帝国の公衆浴場から発見され、ルネサンス貴族の至宝となり、やがてナポリの博物館へと至る波乱の旅路を追いながら、これまでほとんど語られてこなかった「最大の秘密」に迫ります。それは、18世紀に行われた修復で、その顔が全くの別人に「再創作」されていたという衝撃の事実。私たちが感動するその「苦悩の表情」は、一体誰のものだったのか? オリジナルとは何か、修復とは何かという、文化財が抱える根源的な問いを、ミステリーを解き明かすように探求します。
神話のロマン、美術鑑賞の喜び、科学の謎解き、そして歴史ミステリーの興奮。この一冊で、そのすべてが、壮大な物語として一つになります。万博でこの巨人と出会った方も、これから出会う方も、その背景にある二千年の重みを知ることで、鑑賞体験が何倍にも深くなることをお約束します。