親のライバル心が、無邪気な子供同士の互いを好きな気持ちに影を差し、哀しい変節へ。
このストーリーは、音楽と恋愛とそして家族の過去をひとつのポットで調味したような作品。コマ割りが素敵で、漫画じゃなくちゃ出せない感覚をたくさん沢山味あわせてく
れるくらもち先生が、音楽の世界を多く描かれていた時にクラシックのほうで腕をふるったもの。
設定の面白さやストーリーの展開でコミックは今や続々と実写化とかアニメ化とかされているが、それは漫画の世界の一部の要素を利用しているに過ぎない。
コミックでしか表現出来ないくらもちワールドが魅力絶大のくらもち作品は、コマ、構図、感受性高いモノローグなど、いずれも漫画上でしか堪能出来ない。先生の才能は、他の媒体に安易に再現など出来ない。この時期に立て続けに発表されていた作品群は、このフィールドで活躍されるにふさわしい眩しい存在感で、少女の心を鮮やかに細やかに映し、チクチクするくらい鋭敏な感傷を印象的に魅せてくれる。この先生は少女マンガ界の至宝だと思う。
メインキャラ二人は昔からほんとのところで大好きなのに、それ以外の障壁で心を通わせにくくなってしまった。音楽が二人の距離を離しもし寄り添わせもする。対決的であろうと頑張るため、対決しきれない心を振り払おうとする男の子。ヒロインは彼のことが冷たくされようともずっと好き。
のだめや、坂道のアポロンなど、いいと思える音楽を扱ったマンガは色々好きだが、この中編作品は、演奏シーンが先駆的だと掲載当時は不思議な臨場感を覚えた。
くらもち男子ファンがかつて大勢居たが、今読んでも多分ツボは押さえてある気がするのではないだろうか。照れ笑いや、仏頂面に垣間見せる優しさなど、キュンのボインツは余すところなく盛り込まれている。
先生の作品に頻発の、友達に足掬われそうになるエピソードまでもれなく・・・。
医師も教師も見破る症状を抱えての最後のシーンは、それまで親のために闘いに向き合ってきた緒方季晋サンに報いるためのストーリーとなったように見えて、そこだけはなんとなく収まりが悪いとは思っている。
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