侯爵の、義務もなにもないのにそこまでヒロインを助けるのか、という「ひたむきさ」が物語を支える。そこまで何の理由もなく、言ってみれば、放っては置けない、くらいの感じでとことん守る。悪人には見えない、という直感が働いたとしても、かなりなヒーロー
である。
危機一髪シーン多く、二人の気の休まることのない逃避行がストーリーの緊張感を持続させる。
最後の、戻ってきた平和、終始ヒロインを支え続けた彼と始まった未来、そのシーンを見届けさせてもらってやっとあぁ終わったんだなぁとの思いで読み終えることになる。今は映画一本見たときの感慨と似た感じ。
二人の愛情は当初から夫婦関係にも似た信頼関係であり、人間の純粋な感覚による根元的な信用。なにかで試した訳でもなんでもない。信用できなかったからと、ヒロインは嘘をついていた訳を話したが、巻き添えにしたくなかったから。
なんの心情の吐露もなく、ましてや約束などない、身内でもないし以前からの友人知人ですらないのに、危険を冒して続ける逃避行。ロードムービー型展開で、相当の期間を経て一線を越える慎ましさ。
当人たちは必死だし、ストーリーは穏やかなものでない。
なのに、わたしは、彼の頼りがいやヒロインを信じる眼、一切自分可愛さ的行動に走ることのない彼の人間力に参った。見た目は、華麗なHQワールドではない。貴族の世界を描いているといったって、これは人間としてのベースの問題、人間社会における自分の立ち位置が、悪意ある人間によって貶められ、潔白を証明することも難しい、という状況。海外ドラマ「逃亡者」を思わせる設定。
こんな男性いたら好きになること必至である上に、もとからいいなと思っていた憧れの人その人による、地獄に仏を地でいく救いの手なのだから、もうこれ以上の感激はない。冤罪なんて一度捕まったら正されるのは無理そうな時代、彼はとことん尽くしてくれてしまって、涙の行動なのだ。
この話は、ため息の出るようなきらびやかさはなく、行き詰まる逃亡と、二人の徐々に熟す愛情の束の間の甘美なひとときとのサスペンス劇場。
ただただ、侯爵に頭が下がるストーリー。
セットで読んだが、最近、やはり殺人事件の出てくる三浦浩子先生漫画化HQ作品を読んだので、振り返ってしまった。
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