映画の上映中に声援を送ったり、ペンライトを振ったりして楽しめる“応援上映”。本連載では、さまざまなアニメーション映画において実施されるようになった応援上映の歴史と現在を追っていく。
前回、応援上映を世に広めた立役者「KING OF PRISM」「プリティーシリーズ」の応援上映の歴史を紐解いたが、その中でも先人として名前が登場したのが「映画プリキュア」シリーズだ。2007年に誕生した、「ミラクルライト」を使って子供たちがプリキュアを応援するという画期的なスタイルは、応援上映の歴史を語るうえで欠かせない発明だった。
そして、9月18日に公開された「映画名探偵プリキュア!不思議な庭と2人の秘密」では、3年ぶりにミラクルライトが復活。今再びミラクルライトへと回帰した理由、ミラクルライトに込めた思いを、東映アニメーションの中川真緒プロデューサー、ABCアニメーションの多田香奈子プロデューサーへの取材を交えて紐解いていく。
取材・文 / 柳川春香
ミラクルライトは「プリキュア」のチャレンジ精神そのもの
入場者特典として数量限定で中学生以下の子供たちに配布され、映画の中でプリキュアを応援するアイテムとなるミラクルライト。ボタンを押すと光る小さなペンライトのようなアイテムで、その年の映画のモチーフやキャラクターを模したものなど、さまざまな形状で作られてきた。今作では「ポチタンミラクルライト」という、妖精・ポチタンをかたどったものが先着で配布されている。
そんなミラクルライトの初登場は、2007年公開の「映画 Yes!プリキュア5 鏡の国のミラクル大冒険!」。「映画プリキュア」シリーズの4作目にあたり、発案者は当時東映アニメーションに在籍していた梅澤淳稔プロデューサーだ。ミラクルライトや入場者特典を光らせて、「がんばれー! プリキュアー!」と子供たちが声援を送る。今では当たり前のようになった光景だが、のちに梅澤プロデューサーが語ったところによると、発案当時は予算面に加え、暗い映画館でライトをつけること、静かに見るのが当たり前の映画館で声を出すことに、周囲からの反対は大きかったという。それでも子供たちに映画を楽しんでもらうため、周囲を説得して実現へと至った。(参考文献:日刊スポーツ刊「プリキュア新聞 2013春号」)
「20年前にそれをやろうとした梅澤さんの発想力には本当に感服します。(初代プロデューサーの)鷲尾天さんが“当たり前を覆していく”というテーマで『プリキュア』を始め、その意志が引き継がれていったことが素晴らしいなと。私も“同じことばかり続けていても進化はない”と感じます。私が『プリキュア』のプロデューサーをやらせていただくのは『名探偵プリキュア!』が3作目なんですが、守らなきゃいけない部分を守りつつ、新しい風を吹き込んでいく大切さは、今のスタッフ陣もすごく大事にしていることです」(多田)
黒と白をイメージカラーにしたキュアブラックとキュアホワイトが、徒手空拳で敵に立ち向かう。2004年にスタートした第1作「ふたりはプリキュア」は、それまでの女児向けアニメの常識を覆すものだった。20年を超えてなお「プリキュア」が愛され続けるのは、シリーズでありつつも新しい作品を新しい世代に届け続けるために、チャレンジすることを忘れなかったからだろう。
もう一度「参加する」楽しさを伝えたい
話を戻すと、その後ミラクルライトは入場者特典の定番となり、2019年「映画プリキュアミラクルユニバース」ではミラクルライトの製造工場が描かれるなど、「映画プリキュア」には欠かせないアイテムとなった。節目となったのは、2020年の「映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日」。コロナ禍の影響により春から秋に公開が延期され、ミラクルライトは配布されたものの、劇場内での使用・発声ができないという事態に陥った。
そして翌2021年春公開の「映画ヒーリングっど♥プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!」では、新たに「ゆめペンダント」が登場。光るアイテムであること、また劇中に登場するものと同じアイテムという点は受け継ぎつつ、2021年秋は「スノーハートクルリング」、2022年は「ドリーミアリング」と、アクセサリー型のアイテムが続いた。2023年、20周年記念作品「映画プリキュアオールスターズF」でミラクルライトが“復活”するも、2024年は「光る!フレンドリング」、2025年は「光る!ミラクルアイアイブレス」と再びアクセサリー型に戻っていく。多田プロデューサーは「コロナ禍の影響だけでなく、ビジネス的な面や、作品の作り方など、いろんな理由があってのことでした。特に20周年の次の年は悩みましたし、毎回すごく試行錯誤はしていたんですよね」と振り返る。
そして「映画名探偵プリキュア!不思議な庭と2人の秘密」では、3年ぶりにミラクルライトが復活。周年のような記念作ではないタイミングでミラクルライトを復活させるに至った理由を尋ねると、中川プロデューサーは「新しいことをしないと、という話をした直後で申し訳ないんですが……」と前置きしつつこう語った。
「今回は“ド定番”をやりたかったんです。入場者特典を何にするかは、実は監督が決まるよりも早いタイミングで決めなければならなかったんですが、私の中で『プリキュアらしい映画にしたい』という思いがあったので、じゃあミラクルライトだな、っていうのはすぐに決まりました。ミラクルライトを作品の中でどう使うか?という演出もやっぱりすごく大事ですし、お話の軸になるものを私が決めることの怖さもあったんですが……」(中川)
「ブレスレットやリングも絶対もらってうれしいですし、妖精さんたちのアクセサリーという発想も当然あったと思うんですが、中川さんは『私はミラクルライトを復活させるんだ!』って最初に言ってらっしゃって。単独の映画でミラクルライトを出すのは6年ぶりになるので、あえて定番に戻る、というのも冒険だったと思います」(多田)
「もう1つミラクルライトにしたかった理由として、『参加する映画なんだよ』っていうことを再周知したかった、というのもあります。特に去年、一昨年と、ランダム配布の入場者特典は銀袋に入れていたので、そうすると『帰るまで開けちゃいけないのかな』と思って使わないままになってしまう方も多かったようなんです。『名探偵プリキュア!』は謎解きに一緒に参加してほしい作品ですし、さらにミラクルライトを使ってプリキュアを応援して、二重の意味で映画に参加してもらえたら、という思いがありました」(中川)
中川プロデューサーが「お話の軸になるもの」と言うように、ミラクルライトは単なるおまけではなく、映画の中でもプリキュアを助けるキーアイテムとして登場する。ピンチに陥ったプリキュアを、画面の中のキャラクターと一緒にミラクルライトを振って応援し、プリキュアが復活する──定番の流れではあるが、今作ではミラクルライトの活躍ぶりが、よりいっそう際立つ印象があった。
「改めてミラクルライトをしっかり使ってもらいたいというのもありますし、お話としても、ただミラクルライトを出さなきゃいけないから出すのではなく、ちゃんと意味があり、理由があるように描きたい。そういう思いを上田華子監督が持っていたので、そこに並走する形で作っていったように思います。例えば、アニメの中にポチタンの形のアイテムが出てくるって、どうしてもメタ的になると思うんです。特典としてはポチタンの形にしたい、でも映画に出てくるアイテムと同じものをプレゼントしたい、じゃあポチタンの形のミラクルライトがきちんと意味を持って登場するにはどうしたらいいか……そういったことを突き詰めて考えていきましたね」(中川)
「演出的に上手だなと思ったのは、『ミラクルライトを使って!』と呼びかける場面も、決して画面の向こうに呼びかけてるわけではなくて、周りの妖精さんたちに呼びかけているんですよね。それがまるで自分たちに呼びかけられてるように感じる。うまく目線も使って、メタすぎないラインに仕上がっているなと感じました」(多田)
この取材は映画の公開前に行ったもののため書き添えておくが、今作は「映画プリキュアオールスターズF」を超える歴代ナンバーワンの初動を記録し、筆者が観測している範囲でも、例年以上に早く入場者特典がなくなった映画館もあった。ファンとしては喜ぶべきことだが、ライトを手にできず悔しい思いをする子供たちが出てしまうのも事実。制作陣もこうしたジレンマに向き合い、試行錯誤を重ねながら、子供たちの思い出に残る参加の形を模索し続けているのだろう。
自分も誰かの“光”になっている
そして「映画名探偵プリキュア!不思議な庭と2人の秘密」のストーリーにおいて、カギを握るのが映画オリジナルキャラクターのかりん、そして妖精のアランとレイン。名探偵プリキュアが、レインから「かりんを助けてほしい」という依頼を受けたことから物語が動き出す。普通の女の子であるかりんの抱える不安は大人ならきっと身に覚えのあるもので、かりんに自分を重ねて励まされたという人もいるだろう。
「TVシリーズの5、6話で、お友達と一緒にいるみくるちゃんを見て、あんなちゃんが嫉妬のような感情を抱くエピソードがありましたよね。誰しも経験したことがある日常に潜む感情。とてつもなく生々しい、リアリティのある悩みで、なかなか『プリキュア』では描かれないものだと思うんですが、あのエピソードを経て、リアルな中学2年生の感情を描くことも『プリキュア』にとって大事だなと思った部分はありました」(多田)
そして劇中でキュアアンサーが向き合うことになる、「誰かのためを思っての行動でも、人を傷つけてしまうことがある」という事実。こうしたリアリティのあるテーマやシリアスな演出が、プリキュアを“応援”したいという気持ちをより沸き立たせるものにもなっている。
「企画の最初にあったのは、TVシリーズのテーマである『自分で見て、感じて、考えて、“本当”の答えを出す』に対して、上田監督が『“本当”の答えって何?』という疑問を持っていたことなんです。自分が正しいと思ってやったこと、自分が考えて出した答え、それが全部正しいわけじゃない。そういう危険な部分も持っているテーマだから、さらに深掘りしたいというのが一番最初にありました」(中川)
事前の親子試写会でも、物語の世界にぐっと引き込まれ、ミラクルライトで一生懸命応援してくれた子供たちが多かったと語る2人。今作で描かれるプリキュアのピンチやキュアアンサーの葛藤がシリアスなものだからこそ、子供たちも「自分たちが助けなきゃ」という強い没入感を得られたのではないだろうか。単にライトを振って楽しく遊ぶのではなく、“子供たちがプリキュアを応援する”という在り方を、ミラクルライトは受け継いできた。
「『プリキュア』シリーズに共通する要素って、夢、諦めない心……いろいろあるんですが、“支え合い”というのもあると思っていて。最初の『ふたりはプリキュア』も、でこぼこの2人が支え合って一人前のプリキュアになっていく作品でした。プリキュアがピンチのときに、お子さんたちがパワーをくれることで、プリキュアが復活する。逆にプリキュアに助けられる子供たちもいる。そうした絆や支え合いを、ミラクルライトは形にしてくれてるんじゃないかなと思います」(多田)
「私も以前、『プリキュア』シリーズの全作品に通じているものってなんですか?という質問をされたときに、“1人じゃない”ってことかなと思いました。やっぱり最初が『ふたりはプリキュア』ですし、“仲間がいる”っていうことですよね。キュアアンサーは先陣切って引き連れていくタイプではなく、並んで一緒に歩いてくれるような子。一方的にかりんちゃんを応援するのではなく、寄り添っていく姿が描けたのは、キュアアンサーらしさがすごく出せたんじゃないかなと思います」(中川)
「私は今作の、『かりんは僕の光だ』というセリフがすごく好きで。かりんちゃんはアランとレインにとって光だったし、きっと逆もそうだったはず。助けられてばかりじゃなくて、自分も実は誰かの光になってることがある。そのことを、悩んだときにはミラクルライトを手に取って思い出してほしいです」(多田)
大人向け応援上映はどこで沸いてくれるか楽しみ
さて、近年では「プリキュア」シリーズにおいても、大人がペンライトを振ったり、発声したりできるいわゆる“応援上映”も実施されている。本連載の第1回で取り上げた通り、“応援上映”が大きく広まったのは2016年だが、同年10月公開の「映画魔法つかいプリキュア! 奇跡の変身!キュアモフルン!」でも数回ではあるものの大人向けの発声可能上映が行われており、実はかなり早くから「プリキュア」でも応援上映が行われていた。以降も2023年の「映画プリキュアオールスターズF」では初の47都道府県で応援上映を開催。今作も10月2日に全国10館で開催が予定されている。
「私が最初に体験した『わんだふるぷりきゅあ!』のときは、どんな雰囲気になるか不安もあったんですが、すごく温かい空気感で。皆さん『プリキュア』という作品のことを理解して発声してくれているんだな、と感じました。Xの実況を声に出してやっているみたいな感じもあって、こういう楽しみ方もアリなんだなと思いましたね。『わんぷり』のときは、いろはちゃんと悟くんが登場したときの沸き上がり方がすごかったのが印象深いです(笑)。笑ったり泣いたり、思いっきり感情を出して、すっきりしてもらえたらうれしいです」(多田)
「私はまだ応援上映未体験なので、どこで沸いてくれるか楽しみですね。『プリキュア』が好きな人たちが集まってるって考えると、いい空間だなあと思います。応援だけじゃない、いろんなリアクションが見られると思うので、私もひっそり行って様子を見たいなと思います(笑)。恥ずかしがらずに殻を破って、一歩踏み出そう!」(中川)
応援上映の雰囲気は作品によっても会場によっても異なるが、同じ映画をみんなで一緒に楽しんで、笑ったり泣いたり音楽に合わせてペンライトを振ってみたり。子供に戻ったような素直な気持ちで「映画プリキュア」を楽しめる、貴重な機会になるだろう。ミラクルライト、そして“プリキュアを応援する”ということに込められた、支え合いの心。映画館の中ではもちろん、映画を見終えた後もその光があなたを照らすに違いない。
「映画名探偵プリキュア!不思議な庭と2人の秘密」作品情報
スタッフ
原作:東堂いづみ
監督:上田華子
脚本:成田良美
音楽:深澤恵梨香、馬瀬みさき
キャラクターデザイン・総作画監督:宮本絵美子
美術監督:藤井里咲
色彩設計:竹澤聡
撮影監督:新井拓己
製作担当:直田宏隆
キャスト
千賀光莉、本渡楓、長谷川育美、東山奈央
松岡美里、髙橋ミナミ、高森奈津美、南條愛乃、花井美春
長縄まりあ、種﨑敦美、松田颯水、上田麗奈
加藤英美里、羊宮妃那、梶裕貴
鬼頭明里、島﨑信長、内山昂輝、コットン
©2026 映画名探偵プリキュア!製作委員会
(コミックナタリー)