このレビューはネタバレを含みます▼
私も推理小説かと思って読んだのですが、昭和20年8月12日の東京新聞に初出のエッセイでした。とするととても興味深い文章だなと思います。敵国アメリカを辛辣に表現するのは当たり前ですが(予告された都市に至るまでの中継地点に所在する施設を狙っている場合もある)と推論を披露することにより、予告された都市の住人だけでなく重要施設の近隣へも注意喚起しているのでしょう。この時期日本は敗色濃厚で都市部(まさに東京新聞エリア)では衣食住全てにかけた状況でした。この状況で坂口は日本国民が表向きは深刻な顔をしながらこの状況を笑い飛ばしている、私も大笑いしてしまった、と(迂闊に口を滑らせた若い母親を引き合いに)表現します。まさか坂口がこのように本気で思ったのではなく本当のことを書けば検閲にかかるので口を滑らせた母親を隠れ蓑に「国民はすり減っている」と表現したかったのでしょう。だって広島への原爆投下は8月6日、長崎へは8月9日です。こういう時代に生きた表現者の苦悩を感じます。筆を折ることも一案ですが、そうすると大本営発表だけになり国民は隠されたメッセージすら受け取れなくなる。このタイトルも「娯楽読みものですよ」と検閲の目を眩ませる技だったかも。筆を折った作家も、書きつづけた作家も苦悩した時代。自分だったらこの時代をどう生きたのだろう、と考えさせられるエッセイです。思いがけずこんな文章を読む機会を得られて良かった。短い文章ですから、是非。時代背景も考えながら読んでみてください。