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これから紹介するのは、なにごともなしとげなかった人物である。むろん才能はありあまるほどあった。ただ、封建社会の中で御典医の家の次男として生まれたのが、運の悪さといえばいえる。最初から日の当たる活躍の場を奪われて、いいところ補助要員だった。もっとも、それを本人が嘆いていたとは思えない。なにごとかをなしとげるなどといった大層な考えも抱いてはいなかった。(「はじめに」より) 江戸時代後期に戯作者・蘭学者・狂歌師として活躍した文人、森嶋中良(もりしま・ちゅうりょう)。平賀源内の弟子であり、多くの文化人と交流を持ち、気の向くまま数々の書物を著してヒットさせた上に、ついには浮世絵にまで手を染めた彼の半生とは、いかなるものであったか。 電子オリジナルの評伝小説。●佐野広実(さの・ひろみ)1961年横浜生まれ。1999年第六回松本清張賞を『芳年冥府彷徨』(島村匠名義)で受賞。2020年第六十六回江戸川乱歩賞を『わたしが消える』で受賞。近作は『誰かがこの町で』(講談社)。電子書籍封切作品に『ムッシュ・ジャポネ』『浮世絵鑑定談』『森嶋中良 御典医の次男坊』がある。「新青年」研究会会員。
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