私たちは本当に「見て」いるのか?
触れて、聴いて、初めてわかる、この社会のかたち。
時に鋭く、そしてあたたかく。ユーモアに満ちた随想集。
2011年から8年にわたり「点字毎日」に好評連載された「堀越喜晴のちょいと指触り」、待望の初期化!
2歳の時に光を失った言語学者による、社会の風をとらえたエッセイ。
「目で見ない族」の著者が、この国吹く風を全身で感じる――
私にとって視力は超能力にほかならない。触ってもいないくせに、遠くの物がそれこそ
手に取るようにわかるだなんてのは、さながらテレパシーか念力だ。が、ちょうど超能力
の持ち合わせがなくたって平気で生きていられるように、物心ついた時からずっと視力なしで世界を相手にしてきた者にとっては、目で見ない生活はごく当たり前のことなのである。私のような者には目に対してのミステリーがある。そして、目で見る族の人たちにも目が見えないことへのミステリーがある。
ならば互いに胸襟を開いて、それぞれのミステリーについて忌憚なく語り合い、「ああ、そうなっているのか」と面白がって互いの目からうろこを落とし合う。これぞまさに健康
なコミュニケーションというものじゃないだろうか。そして、そんな楽しいコミュニケーションの風が互いの心に通い合っているならば、「見えなきゃわからんだろう」だの、「見えてるくせに」だのといった、互いへの勝手な忖度も、やがては雲散霧消していくことだろう。(本文より)
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