2019年7月18日に起きた京都アニメーション第1スタジオへの放火。
36人もの尊い命が奪われた悲惨極まりない事件はなぜ起きたのか。
被告の青葉は、公判で自身のことを「底辺の人間」と呼び、「底辺の論理」によって罪を犯したと話した。
事件を防ぐ手立てはなかったのか。
そして、遺族が直面した喪失と、メディアスクラムなどの苦しみを生まないためには何ができるのか。
これらの問いに答えるため、地元紙ならではのネットワークをいかして遺族に寄り添い、6年間取材を積み重ねた。
2024年度新聞協会賞を受賞した地元紙・京都新聞の連載「理由」をもとに書き下ろした一冊。
――「はじめに」より――
この男は何者なのか?
社会を震撼させた事件が2019年7月18日、京都市にある京都アニメーション第1スタジオで起きた。
放火により36人が死亡、32人が重軽傷を負った。地元紙の京都新聞は過去最大級の取材態勢を組み、事件の背景や犠牲者の人となりなどを精力的に報じた。しかし、抜け落ちている大きなピースがあった。それは、現場近くで身柄を確保され、後に放火や殺人容疑などで逮捕、起訴された男の実像。大やけどを負い、懸命の治療で一命をとりとめたが、初公判までの4年間、供述内容や近況などの情報は極めて断片的にしか入らなかった。
最後のピースが、公判を通じてついに埋まる──。しかし、取材班の思惑は、公判が始まると戸惑いに変わっていった。