長雨で堰が崩れ、下流の畑が水に浸かった。——その検分不備の責めを負わされ、水利方のミナセは堰の見分書を突きつけられる。だが水帳には、八年検分を書いてきたミナセの筆でない箇所があった。
声を荒らげても仕方がない。記録は声を張らない。測量方ジュンが原本を水番小屋から取り寄せ、水番人のゴローが水位の記録の食い違いを証言する。大工棟梁ゲンザの普請記録の写し、隣村名主リクの水割り証文、百姓代タエの洪水御届書——ミナセが半年前に堰の傷みをすでに届け出ていた記録まで、証人が一人ずつ持ち寄る。人足頭バンは、補修の人足がソウマの一存で取り消されたと明かした。
やがて、堰奉行ソウマが四年前から井堰普請の材木代を水増しして着服していたことが、記録と証言で裏づけられる。ソウマは罪を認め、代官はミナセの無実を言い渡す。
晩秋、ミナセは検分帳に新しい日付を書き入れる。これからも詰所で共に働きたいというジュンの言葉に、静かに筆を置いた。
本作は綺羅星ツバサの「濡れ衣を晴らす帳面」シリーズ。一話完結・どこからでも。