資産家とはいえ老年の男に嫁いだのは良いけれど満たされない欲求を義理の息子ネイサンに向ける最低の女アデル。実の娘インディアさえも女としてライバル視し、どこまでも欲深くそれを隠そうともしない恥知らず。だけれど、感情に、欲望に素直というべきか。衰
えていく自らを鏡の中に発見し、娘の輝きを直視した時、己の中の欲望に終止符を打つ。それに振り回されるネイサンとインディア。特に母の美しさを認め羨望さえ覚えているインディアにとっては、子供で未熟であることに絶望もしていたことだろうと感じ心が痛む。それは神にも等しく絶対的存在なのだから物語の展開には合点がいく。ネイサンにとっても、義理とはいえインディアは妹なのだから感情を抑えようと展開が鈍るのも良く分かるし、なかなかの読み物だった。特筆するべきは、父親の懺悔の手紙が途中書きだった事。これには非常に現実的で、内容には後悔が現れているが、それでもアデルを選んでしまった自らの気持ちは否定できないでいる様が表れていてとても良い。物語の中では何もかもを鮮明にしすぎる傾向があるから、途中書きなことに意味深長さがうかがえて、味わい深さを感じられる。人は何もかもを正しい方向へだけ進めることができるわけではないと。
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