アイデア満載で、この作品が世に出て約70年というのに、ストーリーはかつて読んだことのあるような手垢の付いた感じを持たせない。手塚治虫先生の頭の中は多分当時の漫画の狭いイマジネーションの枠に収まってなかっただろう。うねる敵味方の有りようの変遷
、数奇な運命と安易に片付けられない主人公の波乱の日々、娘として、王子として。思えば、自己決定権無くてままならない最たるものが、女性に生まれたか男性に生まれたか、ということかもしれない。その当時の日本の性別役割観に斬り込んだ感じが、また、どんなに読み手に新鮮だったか、想像すると、やはり手塚先生の大きさを思わずにはいられない。
自分で自分の人生を主体的に拓く、他人に依存しない主人公の、権力争いに巻き込まれたのをきっかけに、事件の都度精一杯対応しながら前へ進むスペクタクル。一方で、母を守り、好きになった人を想うところもおさえている。欲張りといってしまえばそれだけかもしれないが、少女漫画に求められるニーズを満たしながら、新たな地平をどんどん広げ、これまで押さえつけられてきた女の子の冒険心に応えたのではないだろうか。
偉大な漫画界の先駆者、手塚治虫という御方の素晴らしい初期の業績を、このような手頃価格で読めていいんですか、と目を疑ってしまう。つまり、多くの人が改めて、こんにちの漫画の姿は、想像力を豊かにしてくれたこうした作品が長い歳月かけて続々世に出てきたためだと認識するきっかけにはなる。手塚先生ありきでここまで漫画が来たんだと、日本中のPTA(学校教育の親御さんと教師の会)を向こうに回しても、先生が今のクールジャパンの礎築いてくださったのだと、頼もしく誇らしく感じる。少女漫画の世界にも大きな革新をもたらしたんだろうと想像できる。
宝塚の記念館を訪れたとき、宝塚という地に縁からぬとそのとき初めて知ったが、作品には宝塚歌劇を思わせるところが随所にあった。「リボンの騎士」は少女向けであったから、この色濃い宝塚の感じは読んでいて違和感なく繋がってくる。
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