■エロマンガも知的に読める電子コミック
――お二人は電子コミックはご利用なさいますか?
中田「むちゃくちゃ使ってます! 僕はスマホで読むんですけど」
藤森「僕はタブレット派で、今はもうほとんど電子でしか読んでないです」
中田「家族ができてから本棚のスペースを決めて、はみ出し分は処分することにしてるんです。マンガも結婚前に全部処分しました。ちょうど当時、環境が整ってきたんですよね。スマホの画面が大きくなったこと、ほとんどのマンガが電子で買えるようになったこと、あとWi-Fiが普及したこと。これで完全に切り替えました。飛行機に乗るときもロビーで5冊ぐらいダウンロードして機内モードで読めます。最近は古い作品のカラー化も進んで、読み直しの動機も上がってますよね。あらゆる点で素晴らしい!」
藤森「僕は以前はコレクションしてて、1000冊以上あったんです。量の問題に加えて、僕、普通のマンガもあるんですけど、エロマンガもわりと多かったんですね」
中田「急にどうした(笑)」
藤森「本棚ってその人の趣味趣向を表すといいますし、来た人にエロマンガが多いのを見られるのは恥ずかしいなと思って処分したんですけど、またこっそりエロマンガ読みてえなと」
中田「何回言ってんだよ、エロマンガ」
藤森「思ったときにタブレットで見れば、まぁこれ背表紙もないし、若干知的にも見えるわけじゃないですか」
中田「知的に外で見んなよ。家でこっそり見ろ(笑)」
藤森「新幹線とか飛行機の中ではもっぱらこれ(タブレット操作するしぐさ)で。普通のマンガはもちろんですけど、エロマンガを見るのにも最適です!」
中田「店頭で買いにくい内容のマンガなんて、まさに電子向きですよね。電子コミックの素晴らしさを訴えたいです。何を言われても反駁する自信がありますよ(笑)」
■アルキメデスが作った兵器に大興奮!
――電子コミックのヘビーユーザーでいらっしゃるお二人に、今日は“知的好奇心をくすぐられる!インテリマンガ”というテーマでお話しいただきたいんですが。
藤森「エロマンガじゃなかったんですね……」
中田「いまコンビの方向性の違いがバキバキになってます(笑)」
藤森「僕も読みますけど、やっぱりそういうのはあっちゃんがね」
中田「マンガと知性って相反するイメージの人も多いと思うんですけど、僕はマンガで勉強したことも多いし、マンガと勉強って実はすごく親和性が高いと思ってるんです。なかでも僕は『
寄生獣』を描いた
岩明均さんのマンガが大好きなんですね。
いま連載してる『
ヒストリエ』の前に描いてた『
ヘウレーカ』は僕が岩明さんの転機になったと勝手に思ってる作品で、古代ギリシャの天才数学者アルキメデスを描いた作品なんですけど、めちゃくちゃ興奮しました。古代ローマ帝国が強かった時代に、シラクサという地中海の小さな島の王様が、国の防備をアルキメデスに依頼するんです。ところがその時代は平和で、装備は一度も発動しなかったんですね。それから数十年経って、アルキメデスも年老いて、誰もが装備を忘れたときに、大国ローマが攻めてくるわけです。最新兵器を携えた最強軍団VS.数十年前の天才が作った防御設備!」
――おお、それは興奮しますね!
中田「でしょう! かくしてついにアルキメデスの装備が姿を現すんです。見事なサイエンスにもなっていて、装備というのは投石器なんですね。投石器ってだいたい、手塚マンガとかにも出てきますけど、籠に石を載せて引っ張ってビョーンって飛ばすやつですよね。アルキメデスの投石器は違うんです。ローラーに溝を作って、そこにまったく同じサイズに削った石をどんどん投入して、ローラーを回転させてその力で飛ばす。これ、見たことありますよね。バッティングマシーンなんですよ。それを紀元前3世紀の古代ローマ時代に作っていた! っていう感動とともに、敵をバンバン倒していくのが、知的好奇心と少年魂を燃え上がらせるということで、僕はこれをプッシュしたいんですけども。藤森さんはどうですか?」
藤森「さんざんしゃべって“どうですか?”って、息継ぎ感覚で渡さないで(笑)」
■大軍フェチを泣かせる『キングダム』
――ではあらためて、藤森さんおすすめのマンガをお願いします!
藤森「僕は、有名な作品ですけど『
キングダム』(
原泰久)。これは逆にあっちゃんが読んでないんですけど」
中田「天邪鬼だから、あまりにバカ売れしてる作品は完結してみんなが語り終わった後にまとめて読むタイプなんです。浦沢直樹さんの『MONSTER』もそうでした」
藤森「僕がおすすめって言うとよけい読まないんですよ。読め読め!」
中田「どっちにしろほとぼりが冷めてから読むけど、プレゼンは聞きたいね」
藤森「もう39巻まで出てるけど、僕は今年はまったんですよ。ルミネtheよしもとっていう劇場の楽屋に『ヤングジャンプ』が置いてあって、“ああ、みんな読んでるやつだ”と思ってなにげなく見たら、1話だけなのに、泣くほど興奮しちゃって。電子コミックで1巻から37巻まで買って、一日で読破しました。秦の始皇帝のお話なんですよ。もちろん歴史の勉強にもなるし、文字が歴史マンガにしては少ないのも僕には入りやすかった。あと、群衆の描き方がすごく上手なんです。僕、映画とかでも大軍VS.大軍が大好きなので」
中田「大軍同士の戦いを見ると泣いちゃうらしいんですよ(笑)。主人公は始皇帝?」
藤森「後に始皇帝になる政(せい)っていう男が出てくるけど、主人公は秦の将軍になる信(しん)。信には漂(ひょう)っていう幼馴染がいたんだけど、その漂がある日、秦の役人に連れていかれて、戻ってきたときには瀕死の状態で、結局、死んじゃうんです。失意の信の前に将来、始皇帝になる政が現れる。これが漂と瓜二つなんですよ。漂は影武者として連れて行かれて、最初の戦で命を落としたと。信は当然“おまえのせいだ”となるんだけど、政に“悔しいか。ならわたしのために働いて強くなれ”と言われて、パートナーを幼馴染から後の皇帝に替えて二人で歩んでいくという」
――結果から帰納的に物語を構築していく、歴史ものならではのロマンですね。
藤森「5人から始まって、10人、30人、100人、300人、500人、1000人、5000人……と、下僕だった信が率いる部隊が大きくなっていくんですよ」
中田「どこらへんから泣ける?」
藤森「ずっと泣けるよ!」
中田「5人は大軍じゃないじゃん」
藤森「そのへんは物語で泣けるの(笑)! 大軍で泣けるのはやっぱ五千人将とかになってからだね。5000人VS.何万人とか」
中田「いっぱいある歴史マンガのなかで『キングダム』はどこがそんなに優れてるの?」
藤森「まず絶体絶命の状況を作るのがすっごく上手。“あー終わった。絶対負けた”からの大どんでん返しは、まあ1回はあるよね。それはこっちも予想してるの。“ああ、そう来るよね”と。からの、もう1回絶体絶命が来て、さらにどんでん返し。こっちの予想のさらにもうひとつ上を提供してくれるわけ。信たちが丘の上に立ってるシーンがあって、表情から丘の向こうに大軍がいるんだなって思いながらページをめくったら、“そういう大軍だったのか!”と。例えば“ええっ、川をびっしり埋めてる!”みたいな。想像を超えた大軍が出てきて、群衆フェチにはたまらないんですよ(笑)」
■女と男でこれだけ違うマンガの読み方
中田「でも結局、歴史ものが好きなのって男ですよね。女の人には受けない。歴史語ってると嫁から“あ〜”って顔されますもん。そんなに興味ねえんだ!?って(笑)。バトルも興味ないから、歴史ものでバトルがあるやつなんか、女の子はまったくダメだよね」
藤森「やっぱり恋愛がないとね、女子は。知的恋愛マンガみたいのってないの?」
中田「最近嫁がはまってるのが、
東村アキコさんの『
東京タラレバ娘』なんです。東村さんは結婚してるんだけど、まわりにアラサーの独身の女性が多いんだって。そういう人たちが“いい男いない”とか“失恋した”とか言ってるのに対して“そんなんだからダメなんだ”って言いたいから描いたっていう」
――実際その世代の女性にファンが多い作品ですよね。
中田「面白かったのが、僕も読んでるんですけど、完全に見落としてるものがたっくさんあるんですよ。マンガって視覚情報の宝庫じゃないですか。セリフとか表情はもちろん、着てる服とか乗ってる車とか。例えば、嫁が“この人モテそうじゃん!”って熱弁してくるんですよ。“えっ、何が?”“だってこの人、バリバリ仕事してて、表参道に事務所を構える脚本家なんだよ”って言われたんですね。……まったく見てなかったんです、僕(笑)。せいぜい顔と服と人となりくらい。表参道らしきシーンは見覚えがあるけど、表参道の事務所で働いてるのが素敵って感覚が男にはないから」
藤森「確かにそれは女子的感覚だよね」
中田「“しかもこの人たち、あえて一周回って渋い居酒屋で飲んでるけど、すごいキャリアのある女性なんだよ。見て、この靴とバッグ!”みたいな。かばんと靴と居酒屋と食ってるものから、どんな人かを読み取ってるんですよ。男女の壁を思い知らされました」
藤森「情報の読み取り方が全然違うんだね」
中田「いまマンガの番組とかもやってて、『
僕のヒーローアカデミア』(
堀越耕平)はここがすごい、とか猛プッシュするんですけど、共演者の女性タレントは全然ピンとこないんですよ(笑)。男の願望をドンピシャで突いてくるマンガだから、女の人には響かない。万病に効く薬がないのと一緒だって僕は思うんです。マンガをおすすめするときに“絶対面白いです”って言う人の言葉はあんまり信用しない。“この症状にはこの薬が効きますよ”って言うお医者さんが正しくて、“何にでも効きます”ってことはありえないから」
藤森「女子におすすめのマンガね。僕はお姉ちゃんとか彼女のを読んだぐらいだけど……去年映画になった『
クローバー』(
稚野鳥子)とか、『
アオハライド』(
咲坂伊緒)とか。ちょっと食わず嫌いだったなって思ったのは、読むとやっぱり面白いんですよ。主人公はシャイであんまりイケてない女子で、偶然が重なって憧れの男子と距離が縮まっていってカップルになる、みたいな、いわゆる王道なんですけど、面白いし、キャラクターや設定はそれぞれ違うしね。女性の歴史ものより、男の少女マンガのほうが入りやすいかも」
中田「女性に寄り添える男がモテるってことで読んでる人もいるかもしれないね」
藤森「僕もチャラ男やってるんで、勉強になりますよ。最近の若い子の恋愛事情とか。デートってこういうふうにするんだ、とか、告白もSNSでしちゃうんだ、とか。そういうのも読んどかないと時代に置いてかれちゃうんで。“若い子は……”とか言いたくないんですよ。チャラ男は常に最先端にい続けないと(笑)」
中田「女性に対する知的好奇心を追求してるんだ。僕もひとつ挙げると、
峰なゆかさんの『
アラサーちゃん』。面白いですよね。あるある入ってるし、性に関することも赤裸々に描くし、男の誤解とかもズバズバ指摘する。昔は読んでちょっと凹んでたけど、結婚してからはなんでもなくなってきたっていうか、むしろ知りたい、知っとかなきゃって」
藤森「ふむふむ。そこが違うんだな、結婚すると」
■競艇マンガにお笑いを学ぶ!?
――子供のとき読んで勉強になったマンガとかは?
中田「ほんとに超ド直球王道ですけど、『
火の鳥』と『
ブラック・ジャック』(どちらも
手塚治虫)ですよね。あれを超えるマンガあるのかっていうくらいの神マンガ。『ブラック・ジャック』みたいな、専門的な業界を描いたものってやっぱり面白いですよね。
業界マンガでいうと、
河合克敏さんの『
モンキーターン』。競艇マンガです。
僕、ギャンブルを全然しないので、まったく興味がなかったんですけど、すごく深い世界で面白いんだなって思いました。船を操縦するから体重が軽くないといけないじゃないですか。アスリートは普通、体が大きいのがアドバンテージだけど、逆なんですね。欠点が武器になるというのは、笑いも同じなんですよ。かっこ悪い、ダサい、性格がねじ曲がってる、クセがある人
が面白いんですよ」
藤森「確かにお笑いは聖人君子の仕事じゃないよね」
中田「面白いのは、ボートのプロペラって選手が作るんですよ。つまりボートレーサーには技術者としての才能とフィジカルな才能の両方が求められる。プロペラにも時代ごとの流行や変遷があって、最近はパソコンで3Dで設計できるじゃないですか。すべてをシミュレートしてプロペラの形をもデータで弾き出してしまう世代が、職人気質の世代を一気に追い落とす巻があるんですよ。こういうパラダイムシフトってどこの業界にもありますよね。お笑いもそうで、僕らがデビューしたのはひとネタ3分の時代だったんです。30分の落語が10分の漫才に追い落とされ、10分の漫才が3分のショートネタに隅に追いやられたと思ったら、さらに1分のYouTubeの動画ネタで席巻する人たちが出てきて、今じゃけみおくんなんてVineの6秒ですからね(笑)。そういう流れを見ていて『モンキーターン』を思い出すんですよ。他のジャンルを突き詰めたものを見ると自分のジャンルに生きてくる――と、ここにきて我々がしゃべってることの意味が出てきましたね。単にマンガのよさを話すだけなら誰でもできる。ただ、僕らがしゃべるなら芸人としてのバックボーンと絡めると非常にわかりやすくなると。藤森さんはどうですか?」
藤森「うるせえよ! 別々に取材してもらえばよかったな(笑)」